Vol.153 Simon Phillips / June 2026

Simon Phillips

ドラマー、作曲家、プロデューサーとして半世紀近く第一線で活躍を続けるサイモン・フィリップス 。ソロ・アーティストとしての活動はもちろん、ジェフ・ベック、マイケル・シェンカー、TOTOなど数々の名だたるアーティストとの共演でも知られる彼が、自身のライフワークとも言えるプロジェクトProtocolの最新作『6』を完成させた。 本作にはリアルなミュージシャン達による卓越した演奏技術が惜しみなく注ぎ込まれているが、その魅力は単なるテクニカルなフュージョン作品に留まらない。サイモン自身が「インストゥルメンタル音楽では強いメロディを最優先にしている」と語るように、『6』には印象的なメロディとドラマティックな楽曲展開が随所に散りばめられている。さらに、車のシートベルト警告音から生まれたというオープニング曲「ANDROMEDA」、1991年に制作した未発表素材を再構築した「AS THE RIVER FLOWS」、そして14分を超える組曲的大作「EVENT HORIZON」など、作曲家としての創造力にも改めて驚かされる内容になっている。protocolの最新作『6』についてサイモン・フィリップスに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Muse On Muse (以下MM) : 新作『6』は優れた演奏はもちろん、印象的なメロディとドラマティックな楽曲展開が大きな魅力となっています。今作ではどのようなことを目指したのでしょうか。
Simon Phillips (以下SP) : これまでのアルバムと同様に常に前作とは異なる作品を作ることを目指している。今回で言えば前作は『Protocol V』だね。また、私はインストゥルメンタル音楽を書く際、常に「強いメロディ」を最優先に考えている。『Protocol 6』でもその点を実現できていることを願っているよ。

MM : 前作『V』のメンバーからはサクスホーン担当が、Jacob ScesneyからPhilip Whackに代わりました。彼が参加することとなった経緯について教えてください。
SP : Jacobは非常に多忙なホーン奏者で、ツアーに常に参加できるわけではなかった。そこで彼自身が、自分が参加できない公演の代役としてPhillip Whackを推薦してくれた。つまりPhillipはすでにバンドの一員のような存在だった。その後、JacobがProtocolへの継続参加が難しくなったため、『Protocol 6』への参加をPhillipに依頼するのはごく自然な流れだった。

MM : 今作ではあなたが作曲した4曲とAlex Sillとの共作による3曲が収録されていますが、それら曲作りのプロセスについて詳細を教えてください。
SP : 一番の問題は新曲を書く時間を確保することだった。昨年9月に少しまとまった時間ができたので、まず私は前作のアウトテイクや『Protocol V』以降に書きためていたアイデアを聴き返してみた。しかし正直なところ、特に心を動かされるものはなかった。そこでさらに過去を振り返り、倉庫に保管していた古い機材を引っ張り出してみたんだ。それがYamaha QX3 MIDIシーケンサーだった。3.5インチのフロッピーディスクも残っていたが、さすがにもう使えないだろうと思った。ところが驚いたことに問題なく動作し、私がまだイギリスに住んでいた頃に作った楽曲データが残っていた。それらをPro Toolsへ移し、いくつかの曲の制作を始めたんだ。それが大きなきっかけとなり、一度書き始めるとアイデアが止まらなくなった。11月にはレコーディングを始める予定だったので、10月末までにはほとんどの曲を書き上げた。その後、バンドの“リード・シンガー”とも言える存在、実際はギタリストなんだけどAlex Sillにデモを送った。彼は ”Intrepid Traveller” と ”Unstable Grounds” のエンディング部分について素晴らしいアイデアを提案してくれた。また、”Sundown in Old Town” の冒頭部分も彼が送ってくれたもので、私はそこから続きを書いた。とても自然なソングライティング・パートナーシップだよね。

MM : レコーディングはどのように進められたのでしょうか。
SP : いつも通りバンド全員で同時にライブ録音した。この種の音楽においてそれは不可欠なことだ。音楽に自然な有機性が生まれるし、ライブ演奏ならではのエネルギーも得られる。まずは全員でベストテイクを録音し、その後必要な修正やオーバーダビングを行なう。それで完成だ。

MM : アルバムのオープニングを飾る”ANDROMEDA”は、美しいメロディとドラマティックな展開が印象的です。この曲はどのようなイメージやコンセプトから生まれたのでしょうか。
SP : 実は面白い話があるんだ。私の車にはシートベルトを着用しないと警告音が鳴る機能があり、その警告音の音程がF♯でしかも変拍子のようなリズムで繰り返されていたんだ。この曲はそこから始まった。数時間後には曲の大部分が出来上がっていた。なお、冒頭のソロ・ピアノ部分については、間違いなく Hiromi Uehara の影響を受けているよ。

MM : “UNSTABLE GROUNDS”ではErnest Tibbsのベースプレイを中心としたグルーヴが非常に印象的です。この曲でリズムセクションとして特に意識したことはありますか。
SP : 私は毎回のアルバムに、ストレートな4/4のファンク・ナンバーを1曲は入れたいと思っている。今回はErnestをフィーチャーしたかったので、この曲が生まれた。

MM : “INTREPID TRAVELLER”や”CODE 4 KRYPTOS”などをはじめ、Alex SillとPhillip Whackのユニゾンやハーモニーはアルバムの大きな聴きどころです。これらのアレンジはどのように作られていったのでしょうか。
SP : “Intrepid Traveller” は、Joe Zawinul のSyndicateプロジェクトから影響を受けている。基本的にヴァース部分ではコードが一つしかなく、ハーモニーの変化はすべてメロディの中で生み出されている。これはJoeが得意としていた作曲スタイルであり、私自身も挑戦してみたいと思っていた手法だった。一方、”Code 4 Kryptos” はプログレッシヴ・ロックの影響が強い曲だ。作曲面では John Barry 的なスタイル、例えば『James Bond』シリーズを思わせるコード進行を用いている。その一方で、ブリッジ部分にはケルト音楽的なメロディも取り入れている。

MM : “AS THE RIVER FLOWS”にはアフリカ音楽を思わせるリズミックな要素が感じられます。
SP : この曲はもともと1991年に書いたもので、これもQX3から発見したシーケンスの一つだね。オリジナル版から使ったのはわずか2つのセクションだけで、ハーモニーは全面的に作り直した。ドラム・パターンも新しく作ったもので、実は楽曲完成後の最後の段階で追加したものなんだ。

MM : 世界各地の民族音楽や伝統的な打楽器のリズムから影響を受けることはありますか。また、それらをProtocolの楽曲へどのように取り入れていますか。
SP : 私は耳にするあらゆる音楽から影響を受けている。そして、その影響は自然とProtocolの音楽にも入り込んできている。例えば1988年の『Protocol 1』のタイトル曲は、インドネシアのガムラン音楽のリズム・パターンを基にしている。ワールドミュージックは私の音楽にとって非常に重要なインスピレーション源の一つだね。

MM : “EVENT HORIZON”は14分に及ぶ組曲的な大作ですが、どのように楽曲構成を組み立てていったのでしょうか。
SP : 実を言うと、最初からこんなに長い曲にするつもりは全くなかった(笑) ところが、曲が勝手に書き続けられていくような感覚で、まったく止まらなかった。作曲を始めて6分ほど経った頃に「だったら組曲にしてしまえばいいじゃないか」と思った。そこからさらに次々とアイデアが湧いてきて自然と今の形になったんだ。

MM : “SUNDOWN IN OLD TOWN”ではギター、サクソフォン、ピアノによってメロディックに曲が展開し、美しい余韻を残しながら静かにクローズします。この曲をアルバムのラストに配置した理由を教えてください。
SP : この曲はAlex Sillが最初のアイデアを送ってくれたもので、そこに私がアイデアを加えながら完成させた。彼が書いた冒頭のメロディが本当に美しく、それが私に曲を書き進めるインスピレーションを与えてくれたんだ。そして ”Event Horizon” を聴いた後、この曲こそアルバムを締めくくるのにふさわしい作品だと感じたんだ。

MM : Protocolは6作目を迎えましたが、バンドとしてどのような進化を遂げたと感じていますか。
SP : 多くの面で進化したと思う。まず私自身の作曲スタイルが変化したし、それが良い方向であることを願っている。今回のアルバムには複雑な楽曲も収録されているけど、以前よりも空間的な余裕があり、ある意味ではより聴きやすい作品になっている。また、アルバム全体のサウンドにも非常に満足しているよ。

MM : ボーカリストの歌を支える場合と、Protocolのようなインストゥルメンタル作品で演奏する場合では、ドラマーとしてどのように意識を切り替えていますか。
SP : 実は、特に意識して切り替えているわけではないよ。演奏すべきことは常に音楽そのものが教えてくれるからね。インストゥルメンタルの場合は、ギターがボーカリストだと考えてみてほしい。例えば私が Tony Hymas と共にJeff Beck のための音楽を書いていた頃も同じ考え方だった。その時の“シンガー”はJeffだったんだ。彼がメロディを演奏すると、そのメロディに生命が吹き込まれた。私は『There & Back』以来、ずっとその考え方を持ち続けている。

MM : バンドのアンサンブルにおいてあなたは極上のドラムの音を鳴らしていますが、ドラムの音作りやドラムを素晴らしい音で鳴らすためにプレイ面で心掛けていることを教えてください。
SP : ドラムサウンドは完全にナチュラルなものだ。私は曲ごとに演奏方法を変えることでサウンドを調整している。ドラムセット自体で変更するのはスネアドラムだけだよ。今回のレコーディングでは、多くの楽曲で私の新しいシグネチャーモデルであるTama Mahoganyスネアを使用した。それ以外の曲では、1949年製 Slingerland、1939年製 Leedy、1976年製 Ludwig Super Sensitive といったスネアも使っている。スネアドラムを替えるだけで、楽曲のキャラクターは大きく変わるんだ。

MM : protocol の作品ではドラマー、作曲家、プロデューサー、ミックスのエンジニアという複数の役割を担っていますが、その中で最も重要視している役割は何でしょうか。
SP : どの役割も同じくらい重要だね。レコーディング中は私はドラマーであり、同時にプロデューサーでもある。その際はサウンド・エンジニアのJason Marianiに音作りを任せ、私は演奏とプロデュースに集中する。ミックスの段階になると、今度はエンジニアとしての役割を担う。そして作曲家としての仕事は、レコーディングが始まる前に、楽曲を書き上げて準備を整えた時点でひとまず完了している。

MM : あなたは数多くのセッションやプロジェクトに関わっていますが、protocol はあなたにとってどのような存在なのでしょうか。
SP : 私はさまざまなスタイルの音楽を演奏することが大好きだけど、Protocolの音楽は私にとって最も心に近い存在だ。ただ正直に言うと、この音楽でツアーを続けた後は、シンガーと共演したり、他の人が書いた音楽を演奏したりすることもとても楽しみになるけどね。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
SP : 再び東京を訪れ、Blue Note Tokyo のステージに立ち、新しい音楽をファンの皆さんに届けられることを本当に楽しみにしている。1978年以降、日本を訪れるのは今回で49回目だ。また皆さんにお会いできることを心から楽しみにしているよ。

Simon Phillips / Protocol 6
1. Andromeda
2. Unstable Grounds
3. Intrepid Traveller
4. As The River Flows
5. Code 4 Kryptos
6. Event Horizon
7. Sundown In Old Town