Vol.105 Vinnie Moore / January 2020

Vinnie Moore

伝統的ブリティッシュ・ハードロック・バンドであるUFOのギタリストとしての活動、そしてソロとしても活躍し続けているヴィニー・ムーアがニューアルバム「Soul Shifter」をリリース。80年代後半にはポール・ギルバートやトニー・マカパインなどと共に光速のギターテクニックを操る新世代ギタリストとして認知されていたヴイニー・ムーアであるが、その後はデビュー時に色濃かったネオ・クラシカルなスタイルの枠に捉われることなく、ブルース/カントリー/ジャズ/フュージョンといった本来のヴイニーが持っていた豊かな音楽性を背景に独自のスタイルを確立することに成功している。今作においてもファンク/ブルース/カントリーといった音楽の要素が見事にヴィニー流に昇華されているとともに、ヴィニーのエモーショナルかつダイナミクスに溢れたギターの表現力は更に深みを増している。新作「Soul Shifter」についてヴイニーに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : ニューアルバム「Soul Shifter」は、ミュージシャン層から音楽ファンに至るまで幅広い層を魅了するであろう奥深さと親しみやすさを兼ね備えた素晴らしいギター・インストゥルメンタル作品となっていますが、アルバムのコンセプトについてお聞かせ下さい。
Vinnie Moore (以下VM) : これまでもそうだったけど、こういう曲を書こうとかいうコンセプトは考えていないんだ。周りで起こっている事象からインスパイアされてそれが僕の作品に反映されていくんだ。曲作りに集中していると多くのアイデアが浮かんで、作りながら感情的、感傷的でディープな曲ができてきているなって感じていたよ。いつも流れに身を任せているんだ。

MM : あなたのファンの中には「MIND’S EYE」のような作風を求める人達もいるかと思いますが、それについてはどう考えましたか?
VM : そうなんだよ。みんなまだ「Minds Eye」の時のような曲を求めているみたいだね。ライブでは昔からいつも ”DAY DREAM” をプレイしてきたけど、オーディエンスは “IN CONTROL”、”SAVED BY A MIRACLE”、”HERO WITHOUT HONOR” なんかも凄く聴きたいみたいだから、ここ数年はライブのセットリストに加えているよ。あんなに昔に出したレコードなのに、まだ人々に響いているのはすごくうれしいね。あのアルバムを出した時はまだ22歳だったからね。

MM : 今作は今作で今現在のあなたの魅力が凝縮されており、表現力に溢れたギタープレイ、素晴らしい楽曲揃いの作品だと思います。
VM : その通りだね。僕の曲はいつも僕の感情から生まれるんだ。僕にとって音楽は自分のムードを表現するものだからね。ギターを手に取った時、僕が何を感じているのかっていうのが曲やプレイに現われるんだ。

MM : アルバムの曲作りはどのように進められたのでしょうか?
VM : アルバム用に11曲書いたけど、まず僕とドラマーのリッチー・モニカの二人でニュージャージー州、エディソンにあるサウンド・スパ・スタジオでドラムとリズム・ギターを録音した。僕とリッチーで同時にプレイした曲もあれば、僕が作ったデモを基にした曲もあるけど、同時にプレイした時のほうが良い感触とクールな感じが出る。そうやってドラムのレコーディングを終えたら自分のスタジオに入ってギターを録った。ベースに関しては、数人の友人のベーシストにそれぞれのスタジオでレコーディングしてもらった曲もあるし、2曲は自分でベースを弾いた。キーボードのジョーダン・ルーデスは彼のスタジオで、同じくキーボードのジョン・キャシディは僕のスタジオで録音した。全てのトラックが揃ったら前述したサウンド・スパ・スタジオにトラックを持って行って、ステファン・ディークティスにミックスダウンしてもらった。僕がそのスタジオでミックスに同席して何度も何度も繰り返し聴いてしまうとフレッシュな印象を失うから、彼がミックスしたファイルを送ってもらって自分のスタジオで聴くようにした。ミックスで直してほしい箇所をスティーヴに伝えて、直してまた送ってもらって、また手直しを頼んでこっちに送ってもらっていうって流れで、満足したミックスになるまでにこのやり取りが3~4回続いたよ。

MM : レコーディングはどのように行われたのでしょうか? 近年ではプライベートスタジオでパソコン前に全て完結させるミュージシャンも増えていますがあなたの場合はどうでしたか?
VM : そうだね。ホームスタジオの環境でレコーディングできる時代をずっと待っていたよ。僕の初期の作品はいわゆるプロフェッショナルなスタジオで録音したけど、時間の制限があるのが凄いストレスで、はっきり言って好きではなかった。レコーディングの時に時間に追われてしまって、プレッシャーがかかったり、急ぎの仕事になるのは良くないからね。家のスタジオで録る時は、リラックスできるし自分のパフォーマンスに満足がいくまで時間をかけて仕事する事ができる。特に僕はレコーディング時に一人になりたいんだ。誰かがいる時は一人でいる時ほど集中できないんだよね。それとエンジニアに自分のやりたい事を伝えるのも時間の無駄さ。自分がコントールしている時のほうが早く作業が進むんだ。

MM : “Funk Bone Jam”ではタイトル通りにファンクで熱い演奏で幕を開けます。
VM : “Funk Bone Jam” に関しては何年も前に2パートだけできていたけど、未完成のままだった。ある日、あの曲を聴き直した時にインスパイアされて新しいパートを書いた事で、曲が新しく生まれ変わったんだ。ファンキーなリズム・ギターとベースが放つグルーヴが基本となる曲で、それに他の要素とアレンジを加えていった。曲の真ん中くらいにはジャムしたパートが入っていて即興で演奏しているよ。オールマン・ブラザーズやサンタナみたいな感じだね。長いソロの多くは僕がオリジナルの即興を弾いたものだね。流れをキープしたかった。演奏してからあまり好きじゃないパートが少しあったから、そこは録り直したけど殆どは僕が一発録りしたソロだね。

MM : “Kung Fu Grip”も同様の流れを汲むグルーヴ感溢れる曲です。
VM : “Kung Fu Grip”はアルバムの中でもお気に入りの曲だね。ファンキーな雰囲気があって楽しいグルーヴの曲だ。トークボックスのエフェクトを使っていて、全体的には僕のクレイジーなユーモアで構成されている。僕が子供のころにはGIジョーって軍人の人形が流行っていて全米中の少年が持っていた。最近ではアクション・フィギュアって呼ばれてるその人形シリーズの一つにG.I. joe with Kung Fu Gripってのがあって、肘が可動式になっているから子供たちはそれでバービー人形の体を触ったりして遊んだんだ(笑) ロープを滑り台にして人形をスライドさせようとしたりするんだけどもちろん上手く降りてこなかったりして、つまり遊び方は人形を動かしながらイマジネーションで遊ぶって感じだね。この曲の終わりで僕が「With Kung Fu Grip」って言っているんだけど、これは当時70年代のG.I. Joeのコマーシャルのものまねをしている。凄く楽しい曲で制作中も笑いながら作業したよ。

MM : あなたに影響を与えたファンク畑のミュージシャン、ギタリストを教えて下さい。
VM : ジェームス・ブラウンが僕にとってのゴッドファザーだね。Pファンクや、スライ・アンド・ファミリー・ストーンやオハイオ・プレイヤーズ、タワー・オブ・パワー、アース・ウインド・アンド・ファイアなど数々のアーチストに影響を受けたよ。ファンクは当時人気があっていつもラジオで流れていたから、ギターを始める前からそういった音楽を聴いて育ったんだ。モータウンの音楽も日常にあふれていたから影響を受けないほうが難しいぐらいだった。スイングも好きでリズムの部分でファンクと共通点があるんだ。

MM : “Mystified”などにおけるエモーショナルで繊細な表現力はギタリストとしてのあなたの素晴らしさ、魅力を改めて知らしめます。
VM : ありがとう!そういうフィードバックをもらうのはうれしいよ。あの曲はクリス・コーネルが亡くなったってニュースを聞いた時に書いたんだ。すごく悲しかったね。

MM : “Gainesville Station”ではカントリースタイルのピッキングによる噛みつくようなサウンドが印象的です。
VM : この曲については、ファンキーなスウィングの要素が入ったブルースの曲だね。僕のヒーローであるレーナード・スキナードのスティーブ・ゲインズにインスパイアされて作ったんだけどカントリーのフレーズやリックを多く使っている。素晴らしいカントリーのギタリストが沢山いるから、カントリーのスタイルで演奏するのも好きだよ。多くの曲が I – IV – V のブルースのコード進行が用いられていてるんだけど、僕は他と同じようにならないように少し違う要素を加えているんだ。

MM : 今作でもあなたの温かみのあるトーン、ダイナミクスに溢れた絶妙な表現力は健在です。ギターのスケールの練習などでは得られない、そういった部分を身につけていこうとする場合は一体何が必要なのでしょうか?
VM : 音楽のセオリーを学ぶのは大事な事だけど、実際に演奏している時にはあまり考えないほうが良い。考えるよりも感じて、自分自身を表現するんだ。これは場数をこなす事で身に付く事だね。人間は一つの感情だけを抱かないし、同じスピードで動くわけじゃないから、強弱や抑揚をつけたり色々な感情を混ぜてその曲に命を与えることがとても大切なんだ。多くの事は内面から自然に溢れ出てくるけど、もちろんそうする為に準備しないといけない事もあるね。

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。
VM : このアルバムではRotosoundの9ゲージの弦を使用した。ピックはPick World製の通常の形状のもので厚みはミディアム。ギターはDeanの自身のモデルVinman2000を5,6本使用したと思う。他にDeanのストラトも部分的に使用している。”Soul Rider” のメロディーにはLes Paulのギターをフロントのピックアップで使用している。ほとんどの僕のDeanのギターには僕オリジナルのDMT Humbuckerのピックアップを使用しているんだけど、2本は別のピックアップが付いているから、色々な種類があるって事になるね。アンプは殆どの曲でMarshallのJMP 100ワットのヘッドとEngl 4×12キャビネットにCelestion V30’sを組み合わせて使った。Fenderの1966 Super Reverbを買ってこれも部分的に使用している。アンプの音色は乾いたシャリシャリの音になるように設定して、オーバードライブのペダルで歪ませてハードに仕上げてるんだ。よく使う二つのペダルはJD Rocket ArcherとAnalog ManのKing Of Toneだね。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
VM : 2020年1月にソロのヨーロッパツアーがイタリアから始まって、UFOのツアーが2月にアメリカから始まる。5月にはUFOの南米ツアーが予定されていているから、2020年はツアーで忙しいスタートになるね。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
VM : 日本のみんな、こんにちは。長年に渡り僕の音楽を聴いてくれてありがとう。日本でプレイするのはとても重要だから、近い将来ツアーできるのを楽しみにしているよ!

Vinnie Moore official site  http://vinniemoore.com/


Vinnie Moore / Soul Shifter
Blu-spec CD:KICP-4014 KING RECORDS ¥2,700+tax

01. Funk Bone Jam
02. Same Sun Shines
03. Kung Fu Grip
04. Mystified
05. Brother Carlos
06. Gainesville Station
07. Soul Rider
08. Mirage
09. Heard You Were Gone
10. Across The Ages
11. Lifeforce (demo) JAPANESE BONUS TRACK