Vol.80 Jennifer Batten / December 2017

Jennifer Batten


Photo by Ali Hasbach

澄み切った素晴らしい歌声を持つシンガー Marc Scherer(マーク・シェラー)とジェフ・ベックやマイケル・ジャクソンといったビッグ・アーティストとの共演で知られている女性スーパー・ギタリスト Jennifer Batten(ジェニファー・バトゥン)によるプロジェクト SCHERER/BATTEN がアルバム「BATTLEZONE」をリリース。アルバムのプロデュース及びソングライティングを手掛けているのは、映画ロッキーのテーマで有名な”Eye of The Tiger”や”Burning Heart”などをはじめ数々の名曲をSURVIVORで世に送り出してきたJim Peterik(ジム・ピートリック)。
アルバムは清涼感のあるキャッチーでメロディックなロック曲にマーク・シェラーの爽やかな歌声、そしてジェニファー・バトゥンのメロディックなフレーズを中心としつつもここぞという絶妙なタイミングではフラッシーな技をも解き放つ、華麗なギタープレイが冴えわたる素晴らしい作品となっている。
アルバムに関することから近年の音楽シーン、マイケル・ジャクソンやジェフ・ベックとの共演時の話などジェニファーに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)


Photo by Sergey Ivanov

Muse On Muse (以下MM) : メロディックでキャッチーさが魅力のロック曲揃いであるアルバム「BattleZone」を創り出した今回のプロジェクト SCHERER / BATTEN 結成の経緯についてお聞かせ下さい。
Jennifer Batten (以下JB) : 元SURVIVORのJim PeterikとMarc Schererとランチをしていた時に持ち上がった会話が全ての始まりでした。Jimはとても豊富なバックカタログを持っている他、未だ世に出していない名曲を数多くストックしていました。JimとMarcは以前に作品を一緒に作っていて、今後も一緒に仕事をしたいという話をしていました。その頃に私もセッションのレコーディングのためにシカゴに呼ばれていました。2度目のレコーディング・セッションを終えて帰った数日後にMarcから電話があって、私のギターが作品に新たな「声」を与えてくれたと言ってくれて、このプロジエクトのもっと重要な役割を担ってほしいと言われたのです。その瞬間にMarc SchererのCDがScherer Battenに変わった訳です。”BattleZone”という曲は彼らと仕事を始めた2日目の朝食の後に3人で書いた曲です。

MM : アルバムのプロデュース及び収録曲のソングライティングを手掛けているJim Peterikは、2015年にMarc Schererとのアルバム「Risk Everything」をPETERIK/SCHERERとしてリリースおり、その作品ではメロディックでキャッチーな魅力的な楽曲揃いだった一方で、ロック曲に必用な個性的でフラッシー、そして華やかな80年代におけるギターヒーロー的なギタープレイがやや欠けていたように感じられます。今回、その欠けていたピースがあなたの参加により揃ったように感じました。
JB : 「BattleZone」のエグゼクティブ・プロデューサーのDanette Pahlがギター・ファンであることも功を奏していますね。彼女がもっとギターを入れるようにとプッシュした部分もあります。彼女は私がレコーディングをしている時、まるでチアリーダーのようでしたよ。とても活気のあるレコーディング環境でしたね。

MM : ブックレットにはあなたの他にもGUITARSとして、Mike Aquino、 Bryan Cole、 Dave Carl、そしてJim Peterikがクレジットされています。アルバムの全曲においてリード・ギターがあなた、それ以外のリズム・パートについてはこれらクレジットされているミュージシャンでの役割分担だったのでしょうか?
JB : 私がレコーディングに参加した頃にはアルバムは既に完成間近という状況でした。他のギタリスト達がリズム・パートの殆どをレコーディングしました。”Crazy Love”の最初のソロ以外、私が全てのソロ・パートをレコーディングしました。”Crazy Love”のソロは個人的に大好きです。

MM : アルバムへのあなたのギターのレコーディングはどのように進められたのでしょうか? 詳細なプロセスを教えて下さい。
JB : 当時まだ新しかったBluGuitar Amp1とエフェクト用にDigitech RP1000とエクスプレッション・ペダルをシカゴに持って行きました。レコーディングの殆どはシグネチャーモデルのWashburn JB100を使いました。過去20年の間に何度も一緒に世界を旅した楽器です。何度も壊れたし、盗まれたこともありました。自分の手元に戻って来て、遂に引退させることにしたのです。自分のスタジオでも新しいWashburn Parallaxe PXM10を使って最終的な手直しを少ししました。これもAmp1に繋げ、更にThomas Blugの新しいスピーカー・エミュレータBlue Boxを使いました。16種類のIRスピーカー・キャビネットから選ぶことができて、ヴァーチャルのマイク位置選択ノブも付いています。ちなみに私はMarshall 1964モデルを使いました。Jimと一緒にスタジオで作業をしていて気づいたのは、彼がとても適切に私に何を弾いてほしいかを指示してくれたことです。また、ヴォーカル・ラインの合間に入れるフィル等のアイディアに関しても適切にアドバイスを出していました。逆に普通のソロ部分に関しては自由に弾かせてくれました。

MM : アルバムのプロデューサーであり作曲者でもあるJim Peterikはあなたにリード・ギターを委ねるにあたって何と言いましたか?
JB : Jimは曲中のどの部分を弾くかという選択をしてくれましたが、それ以外にもちょっとしたフィルのメロディも考えてくれました。場合によっては”Cuts Deep”のイントロ部分のようにフィルのハーモニーも指示をしてくれました。

MM : 楽曲にリード・ギターを入れる際のギタープレイ、フレーズの組み立てといった面におけるあなたのアプローチ方法について詳しくお聞かせ下さい。
JB : 時間と余裕がある時は事前にギターソロのパートに合わせて自分でジャムをするのがベストだと思っています。今回の1回目のセッションではそれをすることができました。そうすることによってソロに何が必要とされているかが把握できるし、色々と実験をしながら雰囲気を掴むことができます。最終的には自分が聴いている音にどう反応するが全てです。また、ドラムがどのようなタイム感を持っているかによってソロも大きく変わりますね。

MM : ワイルドなギターのアーミングの出だしが印象的でアルバムのタイトル曲である”BATTLEZONE”は、あなたとJim Peterik、Marc Schererによる作曲ですが、この曲について詳しくお話し下さい。
JB : 実際に作曲に携わった唯一の曲ですね。Jimはともかく多くの作品を手がけている人なので、今回も私がシカゴに滞在する間にある程度まとまった曲数をこなす予定だったそうです。実際に何曲レコーディングするのかはその時点で分かりませんでした。Jimは一度会って1曲書いてみてはどうかと提案し、リフかグルーヴを何か出してほしいと言ったのです。ヴァースのグルーヴはすぐに出て来て、Jimはそこにメロディとピアノをすぐに足しました。ものの1時間で曲の構成とタイトル、それに大まかな歌詞も出来上がりました。私はシカゴを後にし、その後はMarcが歌詞を仕上げました。実際に歌詞やメロディが変わっていった過程も知らないし、MarcとJimがどれくらい手を加えたのかも定かではありません。シカゴを後にした時はiPhoneに入っていたラフな音源しかなかったことを覚えているけど、確かMarcの声に合わせてキーを変えたはずです。その後、自分のパートは家でまたレコーディングし直してMarcに送りました。

MM : あなたはマイケル・ジャクソン、そしてジェフ・ベックといったロック史に残るミュージシャンと一緒に仕事をしてきましたが、直接に彼らと仕事をしてきて学んだことや気づいたこと、知られざるエピソードなどについてお話頂けませんか?まずはマイケル・ジャクソンについてお願いします。
JB : マイケルとの仕事には2つの重要な要素がありました。それは集中的なリハーサルが持つパワー、そして音楽を超越したライヴ・エンターテイメントの重要性です。Bad Tourのリハーサルは2ヶ月続きました。最初の1ヶ月はバンド、シンガー、ダンサーがそれぞれ別の部屋でリハーサルを行いました。事前にマイケルが行なったVictory Tourのカセットテープを渡され、ライヴにおける曲の形やテンポを覚える必要がありました。曲によってはテンポが異常なぐらい早いものもありました。Ricky LawsonやGreg Philingainesのようなトップクラスのミュージシャンがいなければ、あのテンポでファンク的な要素を表現するのは難しかったでしょうね。”Beat It”もテンポが早すぎて、毎晩必死に演奏していたのを覚えています。正直、オリジナルのテンポにあった素晴らしいフィーリングが失われていた気もしました。以前にカヴァーバンドで同じ曲を弾いていた時の方が良かったと思えるくらいでした。2ヶ月目からは本人も入って大きなステージでリハーサルを行いました。ダンサーやシンガーも加わり、特効やステージングも全て本番さながらで行われました。ともかく密度の濃いリハーサルだったので、東京公演を行なった頃には出演者もベストのコンディションだったし、自信に満ち溢れていました。マイケルと仕事をする以前は、新曲を当日のリハーサルで覚えて、間違えないことを祈りながら夜の本番で演奏していました。マイケルとの経験から、今はリハーサルの重要性を信じていますが、決してリハーサルが好きな訳ではありませんね。


Photo by Brent Angelo

MM : ジェフ・ベックについてはどうでしたか?
JB : ジェフ・ベックはマイケルと全く異なる感じでした。マイケルのショウは作品を忠実に再現することが目的なのに対し、ジェフ・ベックのショウはインプロヴィゼーションがベースになっています。ジェフ・ベックと仕事をしていて気付かされたのは、その場のクリエイティビティが持つパワーです。ジェフ・ベックが私に要求したのは、彼の演奏をサポートしながらもリスクを冒しつつ毎晩、彼の楽曲を進化させてほしいということでした。また、彼のツアーで初めてギター・シンセを自分の演奏に取り入れました。これは自分にとって新たな音の世界を開く結果にもなりました。ジェフ・ベックは常に私にとって大きなインスピレーションだったので、彼と長期間に渡って時間を共有できたのは素晴らしかったし、彼の考え方やどんな音楽にインスパイアされているか等を知ることができたのも貴重でした。彼はいつも新しい音楽を探して聴いているし、プレイヤーとしても常に向上しています。ひとつのメロディに対しても常に新しい弾き方を探し続けているし、彼の指先は終わりのない音の宝庫です。

MM : 最近の音楽シーンについてはどのように感じていますか?
JB : 最近はあまりインスパイアされるような音楽を聴くことができないですね。最後にダウンロードしたのはIMAGINE DRAGONの”Believer”でした。最近は何か聴きたいものがある時はSoundHoundというアプリを使って探します。アルバムではなく曲を単体でダウンロードしています。最近の音楽シーンは全く追っていませんね。最近はラジオも聴かなくなったし、CMがともかく嫌いなので。最近は口コミで気になった音楽をチェックしているぐらいですね。気になるバンドやプレイヤーがいたら聴いてみるぐらいです。この5年ぐらいで一番良いと思ったギタリストはBrad Paisleyですね。とてもエキサイティングでクリエイティヴなエネルギーを持っているし、ギターの腕前も素晴らしいです。彼のスタイルはカントリーなので、自分とは異なるジャンルでボキャブラリーも違うから私の耳にはとても新鮮に聞こえます。それに楽曲に絶妙なユーモアのセンスも含まれているのが好きですね。何度か彼のショウを見ていますが、テクニックは最先端だし、ショウもエキサイティングで楽しいです。一度だけ彼と共演させてもらったけど、興奮しましたね!

MM : 昨今のギタリストは奏法上のテクニック的には超絶を極める人達が数多くいますが、ギターヒーローはなかなか現れていないように見受けられます。この点についてあなたはどのように考えますか?
JB : 超絶的なテクニックには理由が必要であり、それが楽曲にフィットしなければ意味がありません。プレイヤーがどんなに超絶的なテクニックを持っていても、メロディやフィーリングがなければ聴いていても何も感じません。ジェフ・ベックのようなギタリストと比較して見てください。彼は超絶的なテクニックで知られている訳ではありません。それでも、彼は必要に応じて高度なテクニックをチラつかせることもできます。彼の作品を聴くと、「もっと聴きたい」という気持ちになります。アルバム1枚を聴いて「もう十分」と思ってしまうのとは違いますよね。プレイヤーのスタイルに深い感情の要素がなければ人の心に触れることはできません。また、ソロには組み立てが必要です。ソロの頭からフルスピードで弾いてしまったら、そこから先どこにも持っていくところがありません。組み立てがしっかりしていれば、後半に超絶的なテクニックのフレーズを持ってきても面白いし、意味があると思います。スケールを基礎として作られた超絶的なテクニックは聴いていても短時間で飽きます。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
JB : もうすぐ2ヶ月に渡るヨーロッパ/イギリス・ツアーが終わって家に戻るところです。少しオフを取りたいところですが、2018年1月のNAMMでFishman TriplePlayのワイヤレスMIDIシステムのデモ演奏をやる予定なので、それに向けて色々と音の実験もしたいと思っています。来年発売を予定している新しい機材は誰にでも簡単にギター・シンセが手軽に演奏できる素晴らしいものです。それ以外にも今年の冬は色々なレコーディングを予定しています。今では全世界から沢山の楽曲を送られて来るようになりました。家でゆっくりと時間をかけてレコーディングしたいと思います。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
JB : 新しいアルバム「BattleZone」を是非聴いてみて下さい。過去3枚のインストゥルメンタル・アルバムから大きく進化した作品で、初のラジオ向け作品でもあります。それと、neck illusions.com という新しい会社も是非チェックして下さい。とてもクリエイティヴなギターネック用のカバリングでギターの見た目を一新できます。私もスチームパンク系のデザインを6点ほど提供しています。Steve Vaiも6点の作品を出していますので是非チェックしてみて下さい。

Jennifer Batten official site http://www.batten.com/
Jennifer Batten Twitter https://twitter.com/mondocongo
Jennifer Batten facebook https://www.facebook.com/jennifer1batten


Scherer Batten / BATTLEZONE
MRR064 Melodic Rock Records

01. Crazy Love
02. Rough Diamond
03. What Do You Really Think
04. The Sound Of Your Voice
05. Battle Zone
06. It Cuts Deep
07. The Harder I Try
08. Dreaming With My Eyes Wide Open
09. Space and Time
10. Tender Fire
11. All Roads