Vol.66 Kee Marcello / November 2016

Kee Marcello


Photo by Darren Griffiths

元EUROPEのギタリスト Kee Marcello (キー・マルセロ) がメロディックでキャッチーな楽曲からエッジの効いたハードな楽曲までが揃った会心の新作「SCALING UP」をリリースした。
EUROPE在籍時の「Out Of This World」、「Prisoners In Paradise」の2作品においてメロディック、かつセンス溢れるクレバーなギタースタイルでファンを魅了したマルセロが、今作品でもそのスタイルを存分に発揮し、再びファンの期待に応えている。ギタープレイは勿論のことマルセロの優れたロックシンガー、コンポーザーとしての魅力、彼を支えるベース Ken Sandin(ケン・サンディン)、ドラム Darby Todd (ダービー・トッド)のリズム隊とが生す出すライヴ感溢れる力強いバンド・サウンドなど聴きどころは満載。新作「SCALING UP」についてキー・マルセロに訊いた。


Photo by Darren Griffiths
L to R : Darby Todd: drums, Kee Marcello: guitars/keys/vocals, Ken Sandin: bass

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : 新作「SCALING UP」はあなたが在籍時のEUROPEを彷彿させるキャッチーでメロディックな楽曲にあなたのヴォーカリスト、ギタリストとしての魅力が存分に詰まった素晴らしい作品となっています。今作のコンセプトについてお聞かせ下さい。
Kee Marcello (以下KM) : 今回のアルバムのコンセプトはKee Marcello Bandとツアー等で多くの時間を共にしたところから始まっている。メンバーと共にツアーを経験していく中で、自分たちにとってどのようなサウンドが音楽的にしっくり来るかということがそもそものコンセプトだった。今回のアルバムでは自分が受けて来た影響を全て注ぎ込んでいる。それは基本的に70年代ハードロックから始まり、後に自分独自のスタイルのソングライティングに発展していったものだと言えるだろう。

MM : アルバムジャケットにメッセージ性を感じましたが、ジャケットのイラストについて説明をお願いします。
KM : 滅びていく都市をバックにはしごに上っているのはパパ・レグバだ。パパ・レグバは魂の十字路へと通ずる門を守るヴードゥーの神。今、人類は様々な難しい選択に迫られている。人類がこれからも生存していくためにはパパ・レグバに相談しなければならないだろうね。今回のアルバムのアートワークにヴードゥーの神を描いたのは80年代後期から90年代初期の頃に自分が西インド諸島にあるタークス・カイコス諸島に住んでいたことがあるからだ。ハイチに近いことから、その地域には多くのハイチ人たちが住んでいて、常にヴードゥーが存在していた。私はヴードゥーに魅了され、そしてインスパイアもされていた。

MM : アルバムに参加しているバンドのメンバーについて紹介下さい。
KM : ベースを弾いているのは長年の音楽仕事仲間でもあるKen Sandin(ALIEN、Joe Lynn Turner、Bobby Kimball、他)だ。彼は2004年からバンドのメンバーだ。とても長い間音楽を一緒にやっているので、今では同じことを考えるほどなんだ。こういった直感的な要素はバンドにとってとても大切だ。ドラマーはDarby Todd(THE DARKNESS、Gary Moore、Robert Plant、他)。彼は去年のイギリス・ツアーからバンドに入ったが、すぐにバンドにとってなくてはならない存在となった。私とKenは、今までに何人ものドラマーとこのバンドで活動を経験した。どのドラマーもとても才能のあるドラマーばかりだったが、様々な理由があって一緒に続けることができなかった。Darbyとリハーサルを始めた時、私とKenは演奏をしながらお互いを見て同じ言葉を発した。「コイツだ!」ってね。Darbyはとても社交的で、私と似ている部分がある。Kenはどちらかと言うと落ち着いていて色々と考えるタイプの人間だ。Kenはバンドにとってカタリストのような存在でもある。先走る二人を一歩下がったところから別の視点で物事を見てくれる訳だ。

MM : アルバムのレコーディングや曲作りはどのように進められたのでしょうか?詳細なプロセスを教えて下さい。
KM : ツアーで長い時間を過ごしていたところから全ては始まっていた。特に2015年のイギリス・ツアーは私に作曲のためのインスピレーションを与えてくれる結果となったよ。自宅スタジオに戻って曲を作りデモをレコーディングしてDarbyとKenに送った。2人はそのデモを聴き、既にレコーディングが始まる前に自分たちのアイディアを加えてくれた。その後、スウェーデンのイエテボリにあるTop Floor Studiosという素晴らしいスタジオでドラム、ベース、ギターを昔ながらの形でレコーディングした。スタジオのオーナーでもあるJake Hermannは素晴らしいドラム・サウンドを作り上げてくれた。アルバムのドラム・サウンドは、その録音のままのサウンドで収録されている。サンプルやごまかしは一切無いよ。素晴らしい知識を持った人間が作ってくれたオーガニックでナチュラルなドラム・サウンドだけだ!

MM : “Don’t Miss You Much”はEUROPEに在籍時のあなたを知る多くのファンが待ち望んでいた曲です。
KM : ありがとう。確かに、80年代〜90年代からのファンたちにとっては懐かしくて聴きやすい曲に仕上がったと思うよ。この曲の出来にはとても満足している。グルーヴィでありながらも、ハートがあり、メロディックでロックしているね。

MM : 美しいバラード “Fighter On The Trigger”ではジェフ・ベックを彷彿させるメロウで繊細なあなたのギター・プレイが印象的です。
KM : これは「Out Of This World」のアウトテイク曲が元になっている。当時は”Too Far Gone”というタイトルだった。去年の冬に倉庫を整理していたら古いオープンリール・テープが入った箱を見つけてね。そのテープには”COMPASS POINT”と書いてあって、すぐにその中身が何か思い出したのさ。西インド諸島に移住する前、1987年頃に一年だけバハマのナッソーに住んでいて、当時の自宅スタジオでロンドンでのレコーディングを控えていたOOTWのデモ制作をやっていた。自分のデモをレコーディングするためにCompass Pointというスタジオ(AC/DCが「Back In Black」をレコーディングした伝説のスタジオ)に行ってオープンリール・テープを買ったんだ。その時のテープが倉庫から出て来た訳だ。この古いテープを再生するためにはまず別のスタジオで熱処理を施す必要があった。テープは古くなると磁気が弱くなってしまい、そのまま再生することができない。そのまま再生するとテープそのものが切れてしまう。熱処理を行うと一時的に再生が可能になるので、再生可能なうちにデジタル・コピーを作るという訳だ。スタジオにテープを送った1週間後にデジタル・コピーが届き、かつて自分が書いた曲をもう一度聴くことができて興奮したよ!”Finger On The Trigger”では当時のデモの雰囲気をなるべく再現できるように努力した。原曲を最初に書いて録音した時の雰囲気こそが最もしっくり来ているとずっと思っていたんだ。ソロも当時のテイクの雰囲気を意識して録った。当時のソロはジェフ・ベックにインスパイアされたものだった。ジェフ・ベックは自分がギターを始めた頃に大きなインスピレーションとなっていたからね。当時、この曲がアルバムに収録されなかったことをずっと残念に思っていたので、今回は演奏しているミュージシャンたちと歌詞を変えて、やっとこの曲を発表する場ができて嬉しい。”Finger On The Trigger”は自爆テロ犯をテーマにした曲で、引き金に指を置きながら死に直面するテロリストが自らの判断を後悔するというストーリーだ。


Photo by Darren Griffiths

MM : “Soldier Down”ではスロットル全開のあなたのアグレッシヴなギター、Darbyが放つドラムの存在感が聴き手にインパクトを与えます。
KM : この曲のギター・プレイにはとても満足しているよ。様々なスタイルやテクニックを使うことができたしね。最近行ったイギリス・ツアーでも披露した曲なので、ライヴでも盛り上がる曲だということは既に実証済みだ!演奏部分は曲を盛り上げる大きな要素になっていて、この曲におけるDarbyのドラミングはともかく凄い!この曲は元々イントロやソロの後半に出てくるクラシック音楽っぽい部分からできた楽曲なんだ。曲そのもののアイディアがそこから生まれた訳だ。自分の中で曲の全体像を把握してからはすんなりと他の部分が自然の流れで出来上がっていったのさ。毎日、世界中で自分たちの命を危険に曝しながら働く平和維持軍の勇敢な男女たちに捧げる曲だ。

MM : “WILD CHILD”と”DON’T KNOW HOW TO LOVE NO MORE”はあなたがEUROPEに在籍時、彼らの作品用にストックしていた曲とのことですが、これら曲について説明下さい。
KM : 「Prisoners In Paradise」に収録されなかったこの2曲を今回のアルバムに入れた。ファンの間で未発表デモは「Le Baron Boys」と名付けられていた。このネーミングはEUROPEがロサンゼルスのWhiskeyで新曲を試すためのシークレット・ギグを行った際に使ったバンド名だ。今回のアルバムの作曲を開始した際、Le Baron Boysの頃の姿勢が自分のどこかにあった。当時の精神状態や作曲スタイルはとても本能的だった。自分の中にあったギター・リフを自然な形で吐き出して、今回のレコーディングで自らをそういった精神状態に持っていくためのひとつの方法でもあった。今回のアルバムにおける自分のソングライティングはとても直感的だ。レーベルであるFrontiers RecordsのMario de RisoとSerafino Peruginoと当時の未発表曲を収録するという案が持ち上がった際に、全員がこの2曲を打診したことで、話はすぐにまとまった訳だ。

MM : EUROPEといえばEUROPE時代の楽曲を再レコーディングした「Redux: Europe」を発表していますが、リリースすることになった経緯をお聞かせ下さい。
KM : 2003年に「Melon Demon Divine」を発表して以降は精力的にツアー活動を行っていて、ライヴではいつも過去の楽曲をいくつかセットリストに入れていた。長い時間を経てこれらの楽曲は少しずつ形が変わり、より自分っぽいスタイルへと変化したと言える。そろそろ自分のヴァージョンでこれらの曲をアルバムに収める時期が来たと思ったのさ。EUROPEの楽曲以外にもEASY ACTIONのヒット曲”We Go Rocking”も再レコーディングした。過去の楽曲をリアレンジして再レコーディングして、曲を「自分」のものにすることができて嬉しく思っている。アルバムの出来にも非常に満足している。自分のヴァージョンでプレイする方がライヴでも気持ちがいいしね!

MM : “Good Men Gone Bad”ではマティアス・エクルンドとあなたによるユニークなソロの応酬を聴くことができます。
KM : マティアスはとても仲の良い友達なんだ。そろそろアルバムで何か一緒にやってもいい頃だと思ってね。彼の主催するFreak Guitar Campでも何回かゲスト講師として参加してことがあるけど、正式な音源としては初めてのコラボレーションとなった。お互いに異なるプレイ・スタイルなのに、音源では不思議な統一感を生んでいるところをとても気に入っている。

MM : 感情溢れるメロディックな旋律とテクニカルでクレバーな部分を見事に融合させたあなたのギター・プレイはとても魅力的です。楽曲におけるバッキング、リード・ギター、それぞれに対するあなたのアプローチ方法について詳しく教えて下さい。
KM : バッキング(リズム・ギター)を弾くことのは自分にとって実際の作曲作業にとても近い感覚がある。自分が書く多くの曲や曲のパーツはギター・リフやギターによるコード進行から生まれることが多い。キーボードから生まれる曲はごくわずかだ。リフによるパフォーマンスは自分にとってとても重要なものだ。キッチリとリズムに合わせて弾くだけでなく、グルーヴしていないといけない!シャッフルの(はねる)要素のバランスが重要で、ちょうど良いバランスでないといけない。”On The Radio”や”Blow By Blow”、そして特に”Wild Child”で弾いているようなギター・リフこそが大人と子供の違いを見せつけるようなリフなんだ!リード・ギターを弾くことは、一時的にヴォーカリストから曲の支配権を譲り受けているようなもの。そして、それが曲の中で交互に行われていく訳だ。このようなギターと歌の間に生まれる「会話」は自分の音楽の中でとても重要な役割を担っている。言わば歌には不可能なことを、歌の延長戦で演奏するのがリード・ギターだと思っている。例えば”Soldier Down”ではパガニーニの「カプリス」を彷彿とさせるようなオルタネートでのストリング・スキッピングをプレイしている。”Blow By Blow”や”Good Men Gone Bad”ではJohn Coltraneに影響を受けたキーを外したジャズ・スタイルの奏法をしている。これは全て自分の音楽的な引き出しにあるもので、その楽曲にマッチすると思ったらどんなスタイルでも取り入れる。確かにキーを外してとんでもない方向へといくようなプレイをあまり好まないリスナーもいるが、自分にとってはおかまいなしだ。誰も私を止めることなどできないよ?!

MM : あなたのエモーショナルかつクレバーなギターによるロック・インストゥルメンタルのギターアルバムを期待しているファンも多いと思いますが、そういった計画はないのでしょうか?
KM : 分からないね。確かに面白そうだ!それにアイディアも湧き出てくるだろう。作るプロセスもきっと楽しいだろうね。でも・・・これには問題が2つある。ひとつは時間、もうひとつはこのアイディアを気に入ってくれるレーベルがあるかどうかだ。誰がなんと言おうと・・・きちんとしたレーベル/レコード会社からのバックアップが無い状態でアルバムを作ることは時間の無駄だ。アルバムを作るには時間がかかる。だから問題のひとつは「時間」だ。しっかりとしたパートナーがいるかいないかで、アルバムの売り上げは10枚かもしれないし、10,000枚かもしれない。今の発言を踏まえて・・・きちんとした形でオファーがあれば、私はやってもいいよ!

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類について教えて下さい。
KM : ギターは2本のシグネイチャー・ギブソン・レスポールのみを使用している。ピックアップはLundgrenの”Heaven 57s”(http://www.lundgren.se/mics/humbucker/)が搭載されている。更にフレットはTrue Temperament(http://www.truetemperament.com/necks/ )を使用している。2本ともFloyd Roseのアームが付いている。ベーシックのリズム・ギター部分(ソロも)にはお気に入りのMarshallのJVM405JSとグリーンバックを使った。リズム・ギターのオーヴァーダブにはVOXのNight Trainも使った。高音がとてもクリアでギター・リフを弾く時などに弦の音を上手く引き出すことができるんだ。いくつかのリフでCrybabyのワウペダルも使っている。エフェクト的にはそれくらいしか使っていないよ。ディレイやコーラス、フランジャー等に関しては完全にコントロールしたいということもあってミックスの段階で加えている。ライヴではMXRのコーラスやCarbon Copyのディレイを使っているが、レコーディングでは基本的にクリーンな状態でテイクを録音するようにしている。アンビエント系のオーヴァーダブを録音する際はVibeswareのGuitar Resonatorも使った。アコースティック部分に関してはParkwoodの6弦と古いL’arriveの6弦を数曲で使った。このL’arriveにはKee Marcelloと書かれたマザーオブパールのインレイがフレットボードに入っている。

MM : 今後の予定を教えて下さい。
KM : 今は「Rock Of 80’s」という「Rock Of Ages」から生まれた新しいショウのアリーナ・ツアーを行っている最中だ。スウェーデン版の「Rock Of Ages」ではメインの役の一人として出演していた。このショウはストックホルムやイエテボリ、ヘルシンボリで何年かの間にいくつもの公演を行った。常に需要があったことから今回はアリーナ・バージョンをやることになったのさ。売り切れる公演も多く、10月中は6,000〜10,000人規模の公演が10公演もソールドアウトになっている。自分以外にはJoacim Cans(ヴォーカル/HAMMERFALL)やThomas Vikström(ヴォーカル/THERION、CANDLEMASS)をはじめ、スウェーデンの有名ヴォーカリストが何人か出演している。10月31日の「Rock Of 80’s」最終公演が終わったらその後はKee Marcello Bandのヨーロッパ・ツアーが始まるヘルシンキへと向かう。ツアーは北欧でスタートして、その後は年末から来年頭にかけてヨーロッパ本土をまわる。その後は東南アジアや南アメリカ、アメリカでのツアーも予定されている。決まり次第またお知らせするよ!

MM : ファンの人達へメッセージをお願いします。
KM : いつも応援してくれているファンのみんなに「ありがとう」と言いたい!SCALING UPワールド・ツアーでみんなに会えるのを楽しみにしている!機会があれば是非ライヴを見てほしい。こんなバンド、他にはないよ!

Kee Marcello facebook : https://www.facebook.com/keemarcello/
 


SCALING UP / Kee Marcello
KICP-1804 ¥2,600+tax KING RECORDS

1.BLACK HOLE STAR
2.ON THE RADIO
3.DON’T MISS YOU MUCH
4.FIX ME
5.WILD CHILD
6.FINGER ON THE TRIGGER
7.SOLDIER DOWN
8.SCANDINAVIA
9.GOOD MEN GONE BAD
10.SCALING UP
11.DON’T KNOW HOW TO LOVE NO MORE
12.BLOW BY BLOW
13.HERE COMES THE NIGHT (LIVE) [Bonus Track For Japan]