Steve Morse

Photo by Nick Nersesov
The Dixie Dregsでの活動、そして長きにわたりDeep Purpleを支えた(2022年脱退)比類なき名手ギタリスト、スティーヴ・モーズが、2009年の『Out Standing In Their Field』以来となるニューアルバム『TRIANGULATION』をリリースした。 ファンク、ブルース、カントリー、ジャズからクラシック、ハードロックに至るまで、その高度なギターテクニックと豊かな音楽的感性によって、多種多様なサウンドとスタイルを横断し続けてきたスティーヴ。最新作では、オープニング曲「Break Through」からファンク/ロックなリフにDave LaRueのベース、Van Romaineのドラムが絡み、グルーヴが躍動。デイヴがベースでメロディを紡いだ後、スティーヴは中毒性のあるギターソロで応える、といった真にSteve Morse Bandの真髄を聴かせる。また、エリック・ジョンソンが参加した「TexUS」、ジョン・ペトルーシが参加したタイトル曲「Triangulation」では、互いにオリジナリティを確立したミュージシャンならではのリスペクトに満ちたプレイが展開されている。そしてアルバムのラストを飾るのは、スティーヴの息子ケヴィンも関わった「Taken by an Angel」。亡き妻が旅立った夜を描いたという楽曲で、その哀しみと美しさ、救いの光は聴き手の心に強い余韻を残す。スティーヴ・モーズに話を訊いた。
Interview / Text Mamoru Moriyama
Translation Hiroshi Takakura
Muse On Muse (以下MM) : Steve Morse Band としてはおよそ16年ぶりとなるスタジオ・ニューアルバム『Triangulation』がリリースされました。このタイミングでのリリースに至った経緯についてお聞かせください。
Steve Morse (以下SM) : 人生の中で本当に大きな変化を乗り越えて、もう一度アルバムというプロジェクトに自分の全てを注ぎ込まないとと思ったんだ。デイヴ・ラルーが僕の近くに住んでいて、僕が提案するパートを試すために何度も家に来てくれた。ヴァンもアルバムをやることにすごく前向きだったしね。3人とも一緒にやる時間が恋しかったんだと思う。だからアルバムを3人でやることはは完璧なアイデアだったよ。
MM : アルバムのタイトルを『Triangulation』とした理由を教えてください。
SM : ちょっと長い話になるなんだけど、ビル・エヴァンスがBreakthrough というアルバムのカバー用に考えていたアイデアがあって、壁を突き破ろうとしている人間のキャラクターのビジュアルが僕の目を引いた。あれは画家ズジスワフ・ベクシンスキーの実際にある作品をベースにしていて、ビルが許可を取って、こちらの用途に合わせて作り変えてくれたんだ。でも、ジョー・ボナマッサの新作がすでに『Breakthrough』ってタイトルだったので、別の案を探すことになった。僕はそのアートがすごく気に入っていて、ビルに壁を突破していく過程を3つのフレームで見せられないか頼んだんだ。上のフレームは、下の2つのフレームの角度を見て解決策を探している、という構図になっている。Triangulationっていうのは数学において、2つの既知の点に対する角度から解を求める手法のことで、僕らはトリオだしそのタイトルがぴったりだったんだよ。
MM : アルバムのジャケットのイラストアートは個性的でビジュアルの面でも興味を引かれます。
SM : まあ前の質問でほとんど答えちゃったね。要は、バンドって他の2人を見て「今どこにいるか」「どんなアイデアを出すべきか」みたいなことを探り合うものだよね。テンポをどう感じるかとか、何を弾くかとか、いろんなことね。だから僕らも互いを参照して“解”を見つけていく。その感じがTriangulationという事なんだ。
MM : アルバムではライブ的な躍動感やバンドならではの即興的な魅力も放っていますが、曲作りはどのように進められていくのか教えて下さい。予め細部まできっちりと作りこんだものをバンドのメンバーに共有するのでしょうか。それとも曲の大枠を提示し、実際にバンドでプレイしつつアイデアを発展させていくのでしょうか。
SM : 僕の曲の作り方は大きく分けて4つあって、1つはギターだけで完全に作曲する方法。2つ目は僕が打ち込んだシンセベースやキーボードと一緒にギターで曲を組み立てる方法。3つ目は自分で録ったパートを再生しながら、そこに他の楽器を乗せて実験しつつ作っていく方法。4つ目は生のミュージシャンと向き合って一緒にジャムしながら作る方法。デイヴは僕が新しいパートを書くたびに来てくれて、そのパートを忘れないように ラフなレコーディングをしながら、2人で曲を覚えながら演奏していった。そこからPC上で録音したオーディオを使って曲の原型を作ってヴァンに送った。ヴァンはその曲をある程度練習してからこっちに飛んできて、3人で実際に合わせて、必要に応じてエディットしていくという流れだったね。「Taken by an Angel」や「March of the Nomads」みたいに、僕のパートはあらかじめ録音してあって、そこに2人がオーバーダブしていった曲もある。でも多くの曲は少なくとも最後のリハーサル段階では3人で仕上げているよ。
MM : アルバムのオープンニングを飾り、ミュージックビデオも公開されている「Break Through」は、ヘビィなグルーヴのリズムギター、ベース、ドラムとドライブ感のあるリードギターが良い意味で独特で中毒性のあるメロディを紡いでいくといった真にSteve Morse Bandらしさ溢れる曲です。
SM : あの曲は自分でもすごく気に入ってるよ。デイヴにベースでメロディを弾いてほしいって強く思っていて、それがすごく上手くハマったからね。あとこういうファンク/ロック系のリフになると、ヴァンが醸し出すスウィング感が本当に好きなんだ。今年の最初のツアーでは毎晩この曲をやってたね。
MM : 「Off the Cuff」ではデイヴ・ラルーのベースで奏でる美しいフレーズがグッと前に出てくるところがクールです。
SM : デイヴがどれだけ引き出しの多いプレイヤーかをみんなにもっと見てほしかったんだ。彼はどんなパートでも弾けるけど、ソロのレベルが本当に高くてメロディックなソロを奏でるんだ。ギターアルバムとしてはたぶん他の作品よりベースソロが多いかもしれない。でもせっかくデイヴみたいな人がいるなら、思い切り暴れてもらうのが楽しいだろ?
MM : 「TexUS」ではエリック・ジョンソンとあなたのともにオリジナリティ溢れるギタープレイ、紡ぎ出されるフレーズが聴き手を魅力します。
SM : エリックとは、70年代に彼がテキサスのElectroMagnetsを離れた直後くらいから知っている。あの頃はツアーも一緒に回ったしね。僕の中に彼と共有していたある特定のサウンドが記憶として残ってるんだ。楽しくて、エネルギッシュで、メロディックなロックの感触。今回はそれをこの曲に持ち込みたかった。実は彼のために別の曲も用意してたんだけど、エリックがオファーを快諾してくれた後に、もっと彼のプレイスタイルに合う曲ができるんじゃないかと思ってこの曲を書き直したんだ。最初から最後までメロディがある曲になったと思うし、僕はそういうのが大好きなんだよ。

Photo by Nick Nersesov
MM : アルバムのタイトル曲でありジョン・ペトルーシが参加している「Triangulation」について教えて下さい。この曲におけるジョン・ペトルーシのプレイからはあなたへの大きなリスペクトが感じられます。
SM : これは正直タフな作業だった。というのも自分の80年代からの古い友人達は非常に忙しい中でも共作の依頼を無理して受けてくれたりするんだ。Dream Theaterはスケジュールが詰まっていたし、僕からの仕事を義務みたいに感じさせたくなかったんだ。でも状況次第では僕らのバンドはこのアルバムが最後になる可能性だってある、と思った時に、やはり依頼しようと決めた。ジョンと僕は昔一緒に曲を書き始めたことがあったけど、2人とも忙しすぎて完成できなかった。だから今回この曲を用意して、メロディをデュエット形式に切り分けて、2人のソロセクションも含めてアレンジした。彼のやり方が本当に見事でね。僕のメロディを受けて弾いて、次のセクションを僕が返せるような隙間を作ってくれて、その繰り返し。彼のソロはもう反則級だよ。完璧そのもので彼にしかできないことがあるんだ。
MM : あなたの息子ケヴィンが参加している「Taken by an Angel」が持つ哀しみと美しさ、そして安らぎと救いの波動に心をうたれました。
SM : そうだね。この曲の終盤のパートは以前Deep Purpleで試したことがあったけど、あのバンドには合わなかった。でも個人的には「天使が大切な人の魂をもっと穏やかな場所へ導いていく」その旅を描くのにぴったりなパートだと思ったんだ。妻の追悼式のために、息子と僕でその前段のパートを作って一緒に演奏した。それがすごく上手くいった。最後に息子のケヴィンが「アルバムに入れようよ」って言ってくれてね。妻の癌が突然再発し、急速に命が尽きていくと分かった後、妻と過ごした最後の夜を描いた曲にできるかもしれないと思った。曲の冒頭は夜に闇の中、相手が自分の声を聞けているのかどうかも分からないまま話しかけ続ける、その絶望や孤独を描いている。悲しみや愛の深さを伝えながら、同時に相手を慰めようとしている、と言えば伝わるかな?最後は高いメロディのギターが叫ぶように鳴って、すべてのプロセスが終わるんだ。
MM : アルバムで使用したあなたのギター、アンプ、エフェクター、ペダルについて教えて下さい。
SM : 今回ももちろんMusic Manのギターを使用しているよ。それからBuscarinoのクラシックギターと、古くてレアだけど、チューニングが安定しているSteinbergの12弦。アンプは僕のシグネチャーモデルであるENGL 100Wヘッドと、もう1つ20Wのシグネチャーヘッドも使った。20Wの方は内蔵IRエミュレーターを使ってダイレクトでラインに挿して、100WヘッドはRoyerのリボンマイクで録ったトラックをダブルにする為に使用した。あとは曲によってはKeeleyのコンプペダルを曲によって使っているよ。TC ElectronicのFlashback DelayはTonePrintで自分が作成したプリセットを使っている。僕としては特に変わったことはしていないよ。
MM : ところで右手首の関節炎の状態は大丈夫でしょうか。ピッキング時の痛みをカバーするためにピッキングフォーム等に色々と工夫されているとのことですが。
SM : 練習の時は手首をもっと固く使って弾くやり方に変えたんだけど、前回のツアーでは、あるパートに関しては昔のような弾き方に戻らないといけなかった。弦のジャンプを正確に捉えるには、昔やっていた演奏方法が必要だったんだ。骨の表面に放射線治療も受けたばかりで、効果があるか確認するために、しばらく演奏を止めないといけないんだ。60年間一度もギターを弾くのを止めたことがないのにね!だから当面は右手首を使わないようにして、親指抜きで指だけでエレキを弾く練習をしようと思ってる。放射線治療に効き目がある可能性があるかどうか分かるまでね。今後どうなるかで計画は変わるかもしれないね!
MM : あなたの場合は手首の痛みによりピッキングテクニックを抑えなければならないとしても、それ以外の卓越したトータルなギターの表現力、そして何よりも素晴らしい楽曲を創りだせる作曲力、そして音楽家としての総合力をお持ちなので音楽的には全く問題ないのではないでしょうか。
SM : テクニックと音楽性のバランスがどこにあるのか、これからまさに確かめるところだね。技術的な制限はあったとしても、作曲も録音もそして演奏も続けられると思っている。だからそこは前向きに考えているよ。自分の前に壁が現れた時、それを動かすか、避けて通るのか、今僕はその両方をやろうとしているところだ。
MM : 今後の予定について教えてください。
SM : 息子のケヴィンともっと曲を書いていくのが楽しみだし、新しい曲を一緒に演奏する可能性もあるよ。あとSteve Morse Bandのツアーでセカンドギタリストとして参加してくれたAngel Vivaldiが、オンラインでの活動を増やすアイデアをいくつか持っているんだ。教えるのも好きだからそういう活動ももう少しやるかもしれないね。
MM : ファンへのメッセージをお願いします。
SM : 日本の美しい文化と、高いレベルを求める姿勢は君たちを高い次元に導いていく。だから何事も恐れずに飛び込んで、音楽の夢に挑戦してほしい。レベルの高い演奏をする為にはその前段階で他の物事においてもレベルの高さが必要になる。だから些細な作業でも、常にベストを目指して期待値を上げていってほしい。もちろん気軽に楽器を弾きたいだけなら、ストレスにならないように楽しく楽器で遊んで、楽しんで欲しい!

STEVE MORSE BAND / TRIANGULATION
1. Break Through
2. Off the Cuff
3. TexUS (feat. Eric Johnson)
4. The Unexpected
5. March of the Nomads (feat. Scott Sim)
6. Ice Breaker
7. Tumeni Partz
8. Triangulation (feat. John Petrucci)
9. Taken by an Angel (feat. Kevin Morse)

