Vol.134 Michael Thompson / July 2023

Michael Thompson


© Lindsey M. Thompson

セリーヌ・ディオン、マライア・キャリーなど数多くのビッグ・アーティストのレコーディングやツアー、また、映画音楽への参加などで楽曲をより魅力的なものに昇華させるための最適解のギターをプレイしてきた超一流のセッション・ギタリスト、マイケル・トンプソン。
自身の活動としてもこれまでにソロアルバム『The World According To M.T.』、『M.T. Speaks』をリリースし、洗練されたクレバーなギタープレイが散りばめられた音楽でギターファンを魅了している。また、Michael Thompson Bandとしても過去に3作のスタジオアルバム、1作のライブ作品をリリースしており、その活動においてはギター音楽のファンに限らない、AOR / Rock音楽といったより幅広い音楽ファン層にアピールする音楽を手掛けている。
今回、そのMichael Thompson Bandにデビュー作『How Long』でボーカルを務めたムーン・カルホーンが復帰し、ニューアルバム『THE LOVE GOES ON』をリリース。このアルバムは、楽曲の持つメロディと表現力豊かなムーン・カルホーンのボーカル、アレンジの素晴らしさといったトータルな音楽面での魅力を持っている。さらにマイケル・トンプソンの楽曲をひきたたせる匠なギターも大きくフーチャーされており、AORやロック音楽を好むリスナーとプレイヤー目線を持つギターファンの双方を両立して満足させる作品となっている。ニューアルバム『THE LOVE GOES ON』についてマイケル・トンプソンに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


© Lindsey M. Thompson

Muse On Muse (以下MM) : 前作「LOVE &BEYOND」からするとおよそ4年ぶりとなる最新作「THE LOVE GOES ON」がリリースされました。今作をリリースすることとなった経緯について教えて下さい。
Michael Thompson (以下MT) : 新型コロナウイルスによるロックダウン期間中に、Frontiers Recordsからムーン・カルホーンと再び組んでMichael Thompson Bandのアルバムを作らないかと言う話があったんだ。しばらく考えてみてからやる事に決めた。特にこの新しい作品を通してムーンの声と音楽を聴いてもらう機会を作りたかったからね。

MM : アルバムのタイトル曲である”THE LOVE GOES ON”の歌詞でも歌われているように、このアルバムは人々を勇気づけるポジティヴなエネルギーを放っているように感じられます。あなた自身はこのアルバムで何を表現しようと考えたのでしょうか。
MT :  ポジティブなエネルギーに溢れたメッセージを発する事を目指したね。今の世の中はネガティブなもので溢れている。人々にはネガティブな気持ちを忘れる事ができる場所が必要で、僕たちにとってはそれが音楽なんだ。

MM : 今作ではファーストアルバム「HOW LONG」でボーカルだったムーン・カルホーンが再び復活しています。彼が復活することとなった経緯について教えて下さい。
MT : ムーンとは40年以来の友達だけど彼とはMichael Thompson Bandのアルバム『How Long』1枚しか作品を残していなくて、もちろんライブは数え切れないほどやったんだけど録音に関してはその1回だけだった。それから長い月日が流れてしまったけど、またやりたいという思いが頭の隅にあったから実現できて嬉しいよ!

MM : ベースはトム・クルーシエ(元Life By Night、RATTのフアン・クルーシエの弟)が担当しています。彼をベーシストに招いた理由を教えて下さい。
MT : トムはこのプロジェクトにおいて接着剤のように全てをつないでくれた。このアルバムを実現させてくれた人だと言えるよ。トムとムーンの付き合いは、ムーンと僕の付き合いよりも長いからね。彼は歌詞やメロディの作成方法をたくさん教えてくれたよ。作曲の手順は、僕がほぼ完成に近いトラックを作って、それをトムとムーンに渡して、歌詞とメロディを書いてもらう方法だね。これがうまく機能したから11曲をこの方法で書いたんだ。

MM : ドラマーのアナス・アラフについても教えて下さい。
MT : アナス・アラフはシリア出身でアナスは彼の本名、芸名はマイケル・ハートだね。彼は私が出会った中で最も才能あるドラマーの1人で、共同プロデュース、ミックス、マスタリング、キーボード演奏、バックグラウンドボーカルを担当した上にドラムを演奏してくれた。彼がいなければこのレコードは実現しなかったよ!

MM : あなたにとって作品作りやギターをプレイする上でドラマーやベーシストにどのようなことを求めていますか。
MT : フレンドリーで協調性のある人物かつ楽曲に沿った演奏をしてくれるドラマーとベーシストを求めているよ。素晴らしいミュージシャンはたくさんいるけど、僕の音楽で演奏して欲しいと思うミュージシャンは限られているね。

MM : あなたとカルホーン、クルーシエの作曲について、もう少し詳しくそれぞれの役割や作曲プロセスについて教えて下さい。
MT : 先の質問でも触れたけど、トラックは僕のスタジオで制作した後、ボーカルに関してはムーンのスタジオでトムと共同で作業しながら進めた。ボーカルのメロディーはフレーズやどのキーの音を使うかなど長い時間をかけて決めていったよ。3人で考える事によって一人よりも素晴らしい作品ができるって言う好例だったね。


© Lindsey M. Thompson

MM : アルバムのタイトル曲でありミュージックビデオも公開されている”THE LOVE GOES ON”について教えて下さい。
MT : タイトルは僕がこの曲を書いていた際に思いついた。80年代にムーンと一緒にSlangというバンドをやっていて、それがMTBの前身だった。Slang時代の未発表曲で”Love Goes On”って言う曲があって今聞いても良いサウンドだったから”THE Love Goes On”ってタイトルで出す事にしたんだ。それにMTBの前作のアルバムは『Love and Beyond』というタイトルだったので、”The Love Goes On”はその空気を引き継いだものだね。

MM : “WHISPERS AND DREAMS”、”WAR OF THE HEARTS”、”IN YOUR ARMS”の洗練されたアレンジ、大人な雰囲気を醸し出すプレイには他のロックバンドとは違うマイケル・トンプソン・バンドならでは魅力を感じます。
MT : 僕たちはシンプルに素晴らしいフックと良い曲が大好きなんだ。ロックギターとロックのドラムが入ったポップソングだね。僕たちが作曲家としてやることは、愛するすべての音楽を受け入れること、そして君が言及した曲においてそれが示されていると思うよ。でも最終的にはロックなアルバムになって欲しいと思ったね。

MM : 伸びやかでドライヴしたギターサウンド、プレイが印象的な爽快感のあるロックソングである”ALL OF IT”、”JUST WHAT IT TAKES”と続いていく選曲の流れがとても心地良いです。
MT : この2曲に関してはギターリフが曲を引っ張る役割をしているね。多くの曲で僕はまずリフを弾いてそこから曲になるまでアイデアを膨らませていく方法を採っている。だからそれらの曲はギターで作曲された曲だね。

MM : ゆったりとお落ち着いたナンバーである”MY FOREVER JUNE”に癒されます。哀愁あるメロディックなギターソロが更に楽曲を魅力あるものに引き立てています。
MT : この曲も僕が書いて曲名を付けた曲だね。20年前に癌で亡くなったムーンの妻ジュンに贈る曲を作りたかったんだ。ジュンは素晴らしい女性で皆に愛されていた。悲しい曲だけど元気をもらえる曲でもあるね。

MM : “HIGHER”、”OUT OF NOWHERE”、”WHAT KEEPS YOU ALIVE”、”A PICTURE OF YOU”と良い意味でギターの存在感がどんどんと更に増していく曲が続きます。
MT : この曲に関しても僕がスタジオで良いギター・リフを探すところから始まった曲だね。良いリフが浮かんだら、そこから曲を作り上げていく。そしてトムとムーンに渡して歌詞とメロディーの制作に移ったんだ。

MM : ボーナストラックの”WHEELCHAIR”のみ作曲は、あなたとカルホーンとParis(パリス)となっていますが、この曲について教えて下さい。
MT : “Wheelchair”はフロンティアーズから発売されたMTBのアルバムの再発盤のみに収録されていた曲で知らない人も多いからこのアルバムにも収録しようってレーベルから提案してきたんだ。この曲も悲しいけど人々を元気づけるような曲調の曲だね。

MM : 今作ではあらためてカルホーンがボーカルとして持っている表現力の素晴らしさを再認識することができます。
MT : ムーンのボーカルスタイルはR&Bからの影響を受けているところが好きなんだ。ムーンも僕もR&Bのファンだからね。僕はいつもロックとR&Bは融合できると考えていて、僕の大好きなシンガーであるポール・ロジャースやルー・グラムがそれを証明してくれたね。

MM : 今作はアルバムに収録されている楽曲の持つメロディやアレンジの素晴らしさといったトータルな音楽面での魅力はもちろんのこと、あなたのギターが大きくフーチャーされた作品となっており、AORやロック音楽を好むリスナーとプレイヤー目線を持つギターファンの双方を両立して満足させる作品創りに見事に成功しています。
MT : セッション・ミュージシャンとしてギターを弾くときは必ずボーカルや楽曲のために演奏することを心がけている。もちろんMTBのプロジェクトは僕がギターを提供してきた多くのレコードと違って僕のギターが中心となるプロジェクトなんだけど、それでも僕のギターが曲全体を拡張することができるようなプレイを目指しているよ。僕が自分のバンドで楽しんでいることは僕がギターソロをやるってことだね。もちろんセッションの仕事でもソロはたまに弾くけど、このアルバムでは全曲でソロを弾いているよ (笑)

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類について教えて下さい。
MT : この作品では、今までと違う機材をたくさん試したけど、大きな違いはスピーカーキャビネットを使用していないことだね。キャビネットとマイクの代わりに、Suhrが製造した、リアクティブロードを備えたA.C.E.という機材を使用している。もし僕のスタジオの映像を見たことがあるなら知っていると思うけど、僕はたくさんのギターやアンプ、ペダルを所有している。様々なものを混ぜて使うことで音色をバラエティに富ませるようにしているよ。

MM : 今後の予定を教えて下さい。
MT : 今すぐに言えるような計画は今のところなくて、健康で音楽を作れている事に満足しているよ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
MT : ファンにはありがとうと大きな声で言いたいね!僕の音楽が好きで僕のキャリアを通じて応援してくれている人と会うのはいつも感動するよ。みんなに喜びを届けるために音楽をやっているからね!


Michael Thompson Band / The Love Goes On
1. The Love Goes On
2. Whispers And Dreams
3. War Of The Hearts
4. In Your Arms
5. All Of It
6. Just What It Takes
7. My Forever June
8. Higher
9. Out Of Nowhere
10. What Keeps You Alive
11. A Picture Of You
12. Wheelchair (Bonus Track)

Line-Up:
Moon Calhoun – Vocals
Michael Thompson – Guitars
Tom Croucier – Bass
Annas Allaf – Drums