Vol.125 Simon Phillips / March 2022

Simon Phillips


Photo ©Stephanie Cabral

ジェフ・ベック、マイケル・シェンカー、ザ・フー等との共演やTOTOでの活躍など、そのキャリアはロック・ドラマーとして最高峰の一人であるサイモン・フィリップス。ドラマーとしては既に達観の域にあるサイモンがドラムプレイのみではなく、音楽の創造主としてそのクリエイティヴな才能、情熱を一心に注いでいるProtocolが5作目となる作品「Protocol V」をリリースした。
メンバーは、サイモン・フィリップス(ドラム)、アレックス・シル (ギター)、ジェイコブ・セスニー(サックス)、オトマロ・ルイーズ(キーボード)、アーネスト・ティブス(ベース)。今作においても美しくドラマチックな曲からハード・フュージョンな曲に至るまで、各プレーヤーが持ち回りのパートで独自の色彩を与えており、Protocolファンの期待に応える音楽的な魅力に溢れた作品となっている。
また、アンディ・ティモンズ、グレッグ・ハウといったギターの匠からバトンを引き継いだアレックス・シルのクレバーかつスリリングな前任の2人とはまた違ったギター・プレイにも注目。新たなProtocolの魅力を引き出すことに見事に成功している。新作「Protocol V」についてサイモン・フィリップスに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo ©Stephanie Cabral

Muse On Muse (以下MM) : 2017年12月にカリフォルニア州で起こった大規模な山火事により被害を受けたあなたのご自宅がようやく再建したとのあなたのメッセージが、昨年末にGo Fund Meを通じて配信されたのを見て大変安心しました。
Simon Phillips (以下SP) : ありがとう。

MM : それまでにストックしていたあなたの音楽のアイデアのストック等のデータも火災により失われたのでしょうか?
SP : そうなんだよ。火事が起こる5ヶ月前に引っ越しをして、そこからはツアーでほとんど家を開けていたから、たくさんのハードディスクがダンボールに入ったままになってたんだ。ありがたいことに、失ってしまったデータは古いプロジェクトばかりで、進行中のプロジェクトは新しいハードディスクに入れていて、私のパートナーが救出してくれたんだよ。

MM : あなたの音楽制作を支えるご自宅が再建され、Protocolの最新作もリリースされますのでファンもとても喜んでいるかと思います。
SP : Protocol Vで使われたほとんどのパート2020年に借りていた家で書き上げたものだけど、また自分のスタジオで作業できるようになたったのは最高だよ。デモも録れるようになったからね。

MM : 最新作「Protocol V」では、美しくドラマチックな曲に各プレーヤーが持ち回りのパートで独自の色彩を与えており、繰り返し何度も聴きたくなる、とても音楽的な魅力に溢れた作品です。
SP : ありがとう。そうなんだよ。新しいメンバーと作ったProtocolシリーズだね。どの作品にも独自のキャラクターがあって、メンバーみんながこの新しい音楽に貢献してくれたことが本当に嬉しいよ。

MM : 今作ではどのようなことを目指しましたか?
SP : 特にテーマやゴールは定めてないんだ。今までとは少し違うスタイルや影響を取り入れた新しい僕の音楽といった感じだね。もちろんジェイコブ・セスニーをホーンに迎えた事はバンドにとって大きな変化で、音楽的にとてもポジティブな変化だったよ。

MM : 今作ではギターをアレックス・シル(Alex Sill)が担当しています。彼は今回のスタジオアルバムの以前からグレッグ・ハウの後任としてProtocolのライヴにも参加していました。彼がProtocolに参加することになった経緯について教えて下さい。
SP : アーネストがアラン・ホールズワースの追悼コンサートでアレックスの演奏を見て、私に推薦してくれたんだ。ジェイコブもアレックスと何度も共演してきたから、彼からも勧められたよ。地元のジャズのライブで演奏を頼んでみたところ、その時の彼のプレイに衝撃を受けたんだ。

MM : アルバムのオープニング曲 “Jagannath” は、疾走感のある曲で一気に聴き手をProtocolの世界に引き込みます。
SP : 実はこの曲はアルバムの中で最後に書き上げた曲なんだ。この作品にはミディアムテンポの曲が多いからアップテンポの曲が必要だと考え、そこからアイデアが湧いていったよ。私がプログラムしたmoogシンセサイザーのアルペジオからスタートさせて、そこにインド音楽の雰囲気を加えていった。Jagannathというタイトルは力強いという英語のjuggernautと、ヒンドゥー教の神Jagannathの2つからきているんだ。イントロは私の家の前を走っていたEJハリソン社のゴミ収集車の音を思い出させてくれるよ!!


Photo ©Stephanie Cabral

MM : “Isosceles”ではベースのアーネストとあなたのドラムが生み出すグルーヴが印象的です。
SP : この曲もmoogのシンセSubsequent 25からスタートさせた曲でもちろん完成までに大きく変わったよ。当初は私が組んだホーンソロのアイデアをイントロにする予定だったけど、アーネストがすごくクールなベースのパートを考えてくれたから、この曲はそのベースパートから始めることにしたんだ。

MM : “Nyanga”は独得の雰囲気を持っていますが、この曲について教えて下さい。
SP : コロナ渦にカリフォルニアのオジャイで借りていた家で書いた曲で、カリンバのフレーズからスタートさせた曲だね。偶然だけどこのアルバムには三拍の曲が3曲も入ってるんだ。3、6、12拍のグルーヴは大好きだからね。アフリカっぽい感じを含んだ曲だから、ジンバブエの中で一番大きな山があって、カリンバの発祥の地と言われる町、Nyangaという曲名にしたんだ。

MM : “Undeviginti”のオープニングでは、あなたが共に活動していた盟友ジェフ・ベックを思い起こさせますが、曲が進むに連れて各パートのスリリングな掛け合いが展開するProtocolの魅力に溢れた曲となっています。
SP : 思い浮かんだメロディーから発展させてできた曲だね。朝ごはんの準備でゆで卵を茹でている時にこのメロディーを口ずさんで、その瞬間にコンロを止めて、メロディーを忘れないようにしながら、スタジオに駆け込んで機材のスイッチを入れて、Pro Toolsを走らせて演奏したんだ。はじめ拍子がわからなかったんだけど、19/16拍子だと気づいた。その日のうちに曲として書き上げたよ。ブルガリアのフォークミュージックを自分なりに解釈して作った曲だけど、何か特定の曲を意識して作ったものではないね。Undevigintiはラテン語で19という数字なんだ。

MM : “When The Cat’s Away”は、まずタイトルが興味を引きますが、この曲について教えて下さい。
SP : Protocol Vの曲は全部自分で作曲したものだけど、他の曲とのバランスを取るために、もう1曲イージーなファンクのグルーヴを持った曲が必要だなと考えていたんだ。だけどなかなか良い作曲のアイデアが浮かばなかったから、自分の過去の曲を聴いてみたんだ。そうすると2008年に以前のキーボード奏者のジェフ・バブコと共同で書いたこの曲を見つけたんだ。オリジナルは9/8拍子だったけどそれを4/4拍子にアレンジして、その形に沿ってメロディーもアレンジしたよ。メロディーが無礼な感じだからそれに合ったタイトルをつけたんだ。(注: When The Cat’s Away, The mice will playは目上の者が居ない時に人間は横柄に振る舞うということわざ)

MM : “Dark Star”は、ダークで物悲しいキーボードから始まります。
SP : ArtriaのプラグインシンセのFairlight CMIで良い音を探している時に見つけたサウンドからスタートさせた曲だね。このシンセの本物のハードウェアを80年代に使用したことが合ったからソフトウェアとして復刻されたCMIがどんな音になっているか興味があったんだ。この”disturbing sound”というプリセットの上で口ずさんで、5thコードを演奏してみて、そこから2時間くらいで曲ができたよ。Dark Starっていう私のお気に入りの70年代映画があるんだけどそれがタイトルとしてふさわしいと思ったんだ。

MM : 11分に及ぶ大作となっている”The Long Road Home”は、ドラマティックで美しい曲の展開に物語を感じさせられます。
SP : この曲は面白い曲だね。ピアニストのHiromiと日本をツアーで回っていた時に作った曲なんだ。大阪だったと思うけどはっきりとは覚えていない。アコギでまた6/8拍子の曲を描きたかったんだ。
今までのProtocolの音楽とは全く違う感じの曲になったよ。2020年にアレックスとジェイコブを私の家でのディナーに誘った時にProtocol Vのために書いた曲を聴かせたんだけど、その時にこの曲も聴かせないと、って思ったんだよ。アレックスはすごく気に入ってくれて、この曲で演奏したいといってくれた。私とアレックスでMIDIファイルをやりとりしていって、数ヶ月後にこの“The Long Road Home”ができたんだ!

MM : アルバムでは全曲をあなた自身もしくは共作といった形で手掛けていますが、曲を作り上げるまでのプロセスについて教えて下さい。
SP : このアルバムでは私がプロデューサーなんだけど、Protocolのアルバムとしては初めて自分が録音に関わってないアルバムになった。オジャイのレコーディングスタジオ、Carbonite Soundのジェイソン・マリアーニが録音エンジニアとして素晴らしい仕事をしてくれたよ。プロセスはシンプルで、スタジオに集まった全ミュージシャンで同時ライブ録音をしたんだ!Protocolの作品はそうやって作られるんだよ。このスタイルの音楽にはとても重要な要素さ。その後うちの新しいミキシングルームでミックスダウンして、ジェイソンがマスタリングを担当してくれた。

MM : Protocolにはこれまでにアンディ・ティモンズ、グレッグ・ハウ、そして今作ではアレックス・シルといったそれぞれ独自のスタイルを持つギターの名手が参加しています。彼等がProtocolの作品に対してどのような効果を与えてくれたのかをお聞かせ下さい。
SP : 彼らは皆自分のスタイルと才能を持っていて、それを作品に持ち込んでくれたんだ。彼らのことが大好きだよ。私は1980年にジェフ・ベックのために”There & Back”を作曲してからずっとギターのための作曲をしてきたんだ。ギタリストはバンドにおけるシンガーであり、作曲や構成に置いて焦点を合わすポイントなんだよ。そして今はさらにサックスをその ”声” として加える形で「Symbiosis」と「Another Lifetime」を完成させて自分の作品の幅を広げてきたんだ。

MM : それでは今後の予定を教えて下さい。
SP : 最近カリフォルニアで5つのライブを済ませたところだね。秋にはヨーロッパをツアーしたいと思ってるよ。渡航制限次第だけど日本でもすぐにライブしたいね。

MM : ファンへメッセージをお願いします。
SP : また日本を旅するのを本当に楽しみにしているよ。長い間訪れてないからすぐに行きたいよ!

Simon Phillips official website  https://www.simon-phillips.com/


Simon Phillips / Protocol V
1. Jagannath
2. Isosceles
3. Nyanga
4. Undeviginti
5. When the Cat’s Away
6. Dark Star
7. The Long Road Home