Vol.120 Corrado Rustici / April 2021

Corrado Rustici

70年代のイタリアン・プログレバンド Cervello、そしてジャズロックグループのNovaの活躍などで伝説的な存在であるギタリスト、プロデューサーのCorrado Rustici (コラード・ルスティーチ) が、インストゥルメンタル・ソロ・アルバム「Interfulgent」をリリースした。コラードは、70年代のプログレバンドCervelloやジャズロックグループNovaでの活動によりプログレ界で伝説的な存在であるとともに、これまでにフィル・コリンズ、アラン・ホールズワース、ハービー・ハンコック、マイルス・デイヴィスなどと共演するなど、40年に及ぶ輝かしいキャリアの中でイタリアで最も成功したプロデューサーの一人でもある。コラード・ルスティーチに最新アルバム「Interfulgent」について語ってもらった。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : 新作「INTERFULGENT」では、シンセ等による壮大で幻想的に構成されたデジタルサウンドとあなたのアグレッシヴでありながらも美しく躍動感に溢れたギタープレイが融合されたとても芸術性の高い作品となっています。
Corrado Rustici (以下CR) : 5年ぶりの僕のソロアルバムが今回の「Interfulgent」で、シュレッド全開なギターアルバムとは180度方向が違うアルバムを作りたかったんだ。ベーシックな楽曲の上にギターソロを並べるような作品ではなく、楽曲の要素や構成に力を注いで制作したよ。アルバム全体においてキーボードプレイヤーのアレックス・アルジェントが素晴らしい仕事をしてくれた。彼がいなければできなかったアルバムだね。

MM : この作品のコンセプトについてお聞かせ下さい。
CR : やりたかったのは、エレキギターを現代的なサウンドや楽曲構成に当て込む事と、ギターのサウンドに対して普通とは全く違うアプローチをする事だね。ギターで作れるサウンドは何でも作ろうと試みた前回のアルバム「Aham」のレコーディング時から、実はあるペダルを使用していて、それを使用すると今日の音楽に欠けている抒情的な開放や音楽的な浮遊性を与える事ができるんだ。そのペダルは今年発売される予定だよ。このアプローチをする事によって既存のギターのコンセプトや方法論にとらわれる事なく、ただ単に音符をプレイするだけでもなく、歌を唄う様にギターを弾く事ができるんだ。

MM : アレンジも含めてかなり作り込まれている作品ですが、作曲やアレンジのプロセスについて詳しく教えて下さい。
CR : このアルバムに関しては1曲を除く全曲、キーボードで作曲したよ。まず曲の構成を具体的に決めて、曲のリズム要素のレイヤーを色々と試すんだ。エレクトロニック音楽は大好きだから、生のドラムやベースではなく打ち込みのドラムとベースを曲作りの時点から使っているよ。よくあるフュージョン/プログレのような作品にはしたくなかったからね。満足できるリズムセクションが出来上がったら、次はレイヤーを重ねたりパート毎にトラックを抜き差ししていくんだ。曲を仕上げるために自分が長年の経験で学んだアプローチだね。リードギターのパートはまず即興で弾いてみて、次にそのアイデアを「曲の中に生み出される曲」としてアレンジしていくことで、それがソロになるんだ。

MM : 今作はギタリストによる作品といった小さなカテゴリーに収まるものではなく、作曲・アレンジ・プロデュースといったミュージシャンとしての総合力の秀逸さが際立っていますが、そのことについては意識していましたか?
CR : そうだね。前述したように、僕はギターのアルバムを作る事に興味はない。その楽器の概念を超えた、音楽的な作品を作る事に興味があるんだ。

MM : オープニング曲である”Halo Drive”では、デジタルサウンドをバックにアグレッシヴなあなたのギター、そしてキーボードによるソロが印象的です。
CR : この曲は天文学者のデイビッド・キッピングからインスパイアされて作った曲だね。彼はブラックホールの重力を利用して、宇宙船を相対論的なスピードで動かして、今までは非現実だった惑星間の移動についての可能性を唱えている学者なんだ。だから僕はこの曲を通してスピードとその驚異的な発見のエキサイティングな部分を届けたかったんだ。アレックス・アルジェントは素晴らしいシンセ・ソロを弾いてくれたね。

MM : “Night Of The Jackal”は、ミュージックビデオも公開されているエキゾチックなメロディを持った曲です。
CR : ジャッカルは、他人の弱点を突いて自分が優位に立つっていう存在を象徴しているんだ。この何年間の蒙昧な流れの中で、情報に操られた人間たちがレトリックを使って人を騙す光景や、さらに言えばカップルや友人、人々の中における裏切りとも言えるようなアクションを映し出している曲でもある。

MM : “ZuZU Blues”は、あなたのユニークさが発揮された斬新なブルースとなっています。
CR : この曲ではブルースというコンセプトの元、色々と試してみたんだ。だからブルースのコード進行を使いながら、少し違う曲を作りたかった。聴く者を選ぶようなハーモニーという光景を見せるために、水中に潜った時のような音色のメロディーを使ったんだ。

MM : “Anna”や”The Waters Of Enceladus”、そして”G. on a sunny day”では、美しく物悲しいピアノを背景にあなたのエモーショナルなギターが聴き手の心を打ちます。
CR : この3曲に関しては前述したアプローチでプロデュースした曲の見本の様な曲だね。よくエレキギターのギタリストの作品で耳にするようなアフロ・アメリカンのブルースではなく、自分のルーツであるナポリやヨーロッパ人としてのブルースを歌いたかったんだ。だから僕のペダルのサウンドに自分を委ねて、自分のピュアな感情や愛情がこれらの曲の基本的なインスピレーションになっていて、その感情を自由に解放したんだ。

MM : アルバムを通して聴けば聴くほどにあなたの楽曲やギターの魅力にどんどん惹きこまれていく・・中毒性の高い素晴らしい作品です。
CR : このアルバムの為に努力した部分を評価してくれて凄く嬉しいよ。時間をかけて何度も聴いてくれて、曲の中の異なる要素を見つけてくれてありがとう。

MM : あなたのギタープレイ、サウンドはまるでサクスホーンなど管楽器のようにダイナミクスに溢れ、人の息遣いを感じさせるものですが、ギタープレイに関するあなたの考えをお聞かせ下さい。
CR : ダイナミクス(音の強弱)は、ミュージシャンにとってボキャブラリーのような代物で、感情的な要素と強度を表現する為にとても大事な要素なんだ。なぜならばダイナミクスを上手にコントロールすることによって、音はその存在をより良い形でリスナーに届けられるからね。そしてサックス、フルート、ドゥドゥクといったいわゆるウインド楽器は大好きだよ。そういった楽器だけができる表現っていうのを自分のギター・プレイにも落とし込むようにしているんだ。

MM : アラン・ホールズワースに捧げられた“The Man From Yorkshire (Dedicated To A.H.)”ですが、あなたの音楽からはアランを彷彿させるものがあり、過去にはアランと共演もしています。彼が音楽の世界に残した功績についてはどう思いますか?
CR : アラン・ホールズワースのことは20世紀でもっとも偉大なギタリストの1人だと思っているから、君の言葉は褒め言葉として受け止めておくよ。でもアランの演奏を真似しようとしたり学ぼうとしたりした事は一度もないんだ。コピーする事に意味はないし、さらに言えば誰もアランのように演奏する事はできないからね。とはいっても彼と彼の音楽からインスパイアされたことは事実だね。ギターに関して新しいアプローチで演奏するという部分や、ギターについての常識を覆すといった発想がそうだね。だから僕は上手ではないかもしれないけど、自分だけの声とサウンドをギターという楽器の中から発見しようとしているんだ。そしてこの曲に関しては、まずギターで作曲を始めたんだ。僕が1970年代にイギリスに住んでいた頃からアランの事は個人的に知っていて、長い間連絡を取り合ってきた。彼が亡くなったのを聞いた時は言うまでもなく、物凄く悲しかったね。何年か前に、自分のギターを作ってもらう為に、アメリカのギター職人であるビル・デラップに会いに行った。彼はとても親切に対応してくれて、数週間後にはビルがアランの為に作ったギターを送ってくれたんだ。そのギターを使うとアランの楽器に対するフィーリングを感じる事ができて、15分プレイしただけで、この曲を書くことができた。アルバムに収録されている曲とほぼ同じ形の曲がたった15分でできたんだよ。これは最近亡くなってしまったアランが僕に与えてくれたインスピレーションという贈り物だと思っているよ。だからこの曲は彼と彼との思い出を追悼する為の曲なんだよ。

MM : あなたが作曲やレコーディングなどの音楽制作時に使用している機材を教えて下さい。
CR : 下記のリストがこのアルバムで使用したツールだね。
■Guitars:
DV Mark Corrado Signature guitar
Godin MultiAc
Godin Inuk
Synthaxe on “Khetwadi Lane”
■Amp:
DV Mark MultiAmp with Custom Firmware
2 X 12 Cabinet
■Microphones:
Lauten LS-208
Lauten LS308
Lauten Atlantis
Lauten Torch
■Outboard gear:
Eventide Ultra-Harmonizer
Tube-Tech LCA 2B
Brunetti PAR 400 Pre-Eq
■Pedals:
©Sophia – Corrado Signature Pedal
■DAW:
ProTools
Overloud and ReMatrix Plugin

MM : あなたはこれまでにフィル・コリンズ、アラン・ホールズワース、ハービー・ハンコック、マイルス・デイヴィスなどと共演するなど、40年に及ぶ輝かしいキャリアの中でイタリアで最も成功したギタリスト、プロデューサーとも評されていますが、何か印象的なエピソードはございましたか?
CR : 彼らとのエピソードを語り出すと1冊の本ができてしまうよ。一つだけ言えるのは彼らと一緒に演奏ができてすごく名誉だったし光栄だったって事だね。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
CR : 僕の日本の友人達が、彼らのライブラリーにこのアルバム「Interfulgent」を加えてくれたら嬉しいね。そしてこの状況が改善すればすぐにでも日本を訪れて、僕の音楽を美しい日本と、世界の中でも最高のオーディエンスである君たちとシェアしたいと強く思っているよ!

Corrado Rustici official website https://www.corradorustici.com/
Corrado Rustici bandcamp https://corradorustici-official.bandcamp.com/


Corrado Rustici / Interfulgent

1.Halo Drive
2.Night of the Jackal
3.The Man From Yorkshire (Dedicated To A.H.)
4.Black Swan
5.Anna
6.Interfulgent
7.Khetwadi Lane
8.ZuZu Blues
9.The waters of Enceladus
10. G. on a sunny day