Vol.72 Jon Herington / April 2017

Jon Herington


Photo by Jon Gorr

米国ニューヨークを拠点にプロデューサー/シンガーソングライター/ギタリストとして活躍しているJon Herington (ジョン・ヘリントン)。ここ日本でも1999年以降におけるスティーリー・ダンでのレコーディング、ライヴやボズ・スキャッグス、マデリン・ペルーへのギター参加などで熱心な音楽ファンからの支持を得ている。自身のソロプロジェクトではこれまでに6枚の作品をリリースしており、最新作「Adult Entertainment 」は、ジョンの職人気質でプロフェッショナルに徹したギターワークはもちろん、ロック、カントリー、ジャズといった音楽要素が程よくブレンドされた良質なメロディ、アレンジの楽曲が並んでおり、大人な音楽ファンが楽しめる優れた作品となっている。
音楽的なバックグランド、そして最新作「Adult Entertainment」についてジョンに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura
 

Photo by Jon Gorr

Muse On Muse (以下MM) : あなたはSteely Danのレコーディングやツアーへの参加などでその筋のファンからは知られているミュージシャンですが、今回のインタビューを通して初めてあなたのことを知る音楽ファンもいるかと思います。まずはあなたの簡単なプロフィールを紹介下さい。
ジョン・ヘリントン  (以下JH) : ニューヨークを拠点にギタリスト兼シンガー、ソングライター、プロデューサー、アレンジャーとして活動している。実際の仕事としては他のアーティストのライブツアーでのプレイや、レコーディングセッションでのギタリストであったり、プライベートでギターを教えたりもする。もちろん自分のプロジェクト(Jon Herington Band、と自身のトリオ、そしてJim Beardとのデュオ)としても活動しているよ。

MM : あなたの音楽のルーツについてもお聞かせ下さい。
JH : はじめに強い影響を受けたのは、ニューヨークのAMラジオで流れていたポップミュージックだね。Four SeasonsやBeach BoysやBeatlesなんかがよくプレイされていて、好きな曲が多かったんだけど、特にSupremesとかMotownの音楽がお気に入りだったんだ。それから少し後に、FMラジオを聞くようになって、イギリスのバンドやそれらに影響を受けた音楽、BeatlesやRolling Stones、Cream、Jimi Hendrix、The Who、Led Zeppelin等の音楽にはまっていったんだ。自分がギターを弾き始めたのも同時期だ。

MM : プロに至るまでの過程においてギタープレイや作曲、アレンジの能力を上達させるためにどのように取り組んだのでしょうか?
JH : まずお気に入りのレコードに針を落とす事から始めた。好きなレコードのギターやピアノの音を真似しようとしたんだ。それがすごく良い耳のトレーニングになり、今でも役に立っている。でも当時は自分が聴いていた音楽がどんな構成なのか、どんな秘密が隠されているかを知りたかっただけで、それを完璧に演奏する事にはそんなに興味がなかったんだ。だから、ギターを始めて4、5年は基本的なブルースとロックのテクニック意外は身に付かなかったんだけど、大学に行ってから、しっかりと練習してるギタリストの連中と出会い、もっと練習しなければって気づかされた。それから先生について、その10年間、毎日4時間から8時間練習することを誓ったんだ。そうやってテクニックを習得してきた。大学では音楽理論についてかなり学んだ。集中的に音楽を聴いていた時期でもあった。作曲、ジャズの即興、クラシックのハーモニー、音楽理論や20世紀の音楽史まで学んだ。自分の作曲やアレンジのスキルは間違いなくその時期に身に付いたんだ。

MM : あなたがプロのミュージシャンとして初めて携わった仕事や当時の思い出についてお聞かせ下さい。
JH : 最初の仕事は、ギターを始めてから2年後くらいでまだ高校生だった。地元のニュージャージーのウェストロングブランチの近くでライブをしたんだ。当時組んでいたバンドでも既にオリジナルの曲を作っていたんだけど正直あまりクオリティは高くなかったよ!そのバンドでは、Bruce Springsteenのオープニングアクトもやったりした。彼も同じエリアの出身で地元でもよくライブをしていたからね。

MM : Steely Danへ参加することとなった経緯について詳しくお聞かせ下さい。
JH : Steely DanのDonald FagenとWalter Beckerは当時”Two Against Nature”のオーバーダブの最終段階で何曲かのトラックの為にギタリストを探していた。たまたま友人のTed Bakerが、彼らのキーボードプレイヤーをやっていて、俺の事を推薦してくれたんだ。最終的にはアルバム内の4曲でギターを弾く事になったね。そうして彼らとスタジオに入っているに、2000年に大きなツアーを計画していて、そのツアーでプレイしないかって誘われたんだ。迷わずイエス!と言ったよ。

MM : Steely Danといえば、”Peg”がレコーディングされた当時、ギターソロでは何人ものトップギタリストが試された中でようやくジェイ・グレイドンのソロが採用されたといった話もあり、参加ミュージシャンに対して厳しいパフォーマンスが要求される印象があります。実際に長期間に渡りSteely Danで活動してみてどうですか?
JH : その通りだね。彼らが要求してくるレベルは高いけど、俺はそれをリスペクトしてるよ。自分が求めるレベルも高いからね。彼らが求めるポイントはプロダクションにおいてとても重要な事で、タイミングを外さない事、キーが合ってる事、他の楽器とのバランスが取れているかという事、そして瞬間瞬間に流れている音に注意を払いながら自分の音を上手く合わせていけるかということなんだ。

MM : Steely Danとの仕事で印象的なエピソードはありますか?
JH : すぐに思いつくエピソードはないかな。1つ言えるのは、彼らとプレイする時の、あの最高のリズムセクションと一緒にプレイする感じは、生きてる中でも最高にスリリングな瞬間だね。聴いている人には分かりにくい僅かな部分かもしれないんだけど、俺はリズムセクションと他の楽器がうまく溶け合った瞬間に美しさを感じるんだ。各楽器の、ちょっとしたタッチや、音符の長さや、それに関連したヴォリュームの違い等の多くの要素が、慎重に紡ぎ合わされて完璧な演奏になる。特に熟練のプレイヤー達が集中してお互いの音を聞きながら演奏した時は特にすごいね。

MM : それでは最新作「Adult Entertainment」についてお聞かせ下さい。このアルバムを制作するにあたり、アルバムの方向性はどのように考えていましたか?
JH : 「Adult Entertainment」はちょっとしたアクシデントから始まった。自分のトリオで初期から前作の「Time On My Hands」までずっと活動してきているんだけど、前作を作った後の休息期間中、Dennis Espantmanと自分とで遊び半分でジャムしてた時に、新しい曲のアイデアが浮かんだんだ。俺達は長年一緒にライブしてきているから、どんな感じの曲がライブで盛り上がるかを分かっていて、ライブを念頭に置いたキャッチーなトラックとエンターテインメント性のあるリリックで曲を作ったんだ。それが楽しくなっきて、Dennisと俺は週に1回会うようになった。そうしてる内にアルバムが出せるくらいの曲がストックされてきたんだ。そこから本格的に俺とDennis両方が作詞作曲しながら娯楽性の高いアルバムを制作するという過程になった。前作の「Time On My Hands」ではパワフルな曲を作るだけでなく、ギターの演奏を軸にした作品を作ろうとしたけど、この新作では楽曲全体を第一に考えたプロダクションに回帰した感じなんだ。

MM : アルバムはあなたの味のあるボーカルとギターに曲が持つ心地よい良質のメロディ、それらを抱合するクオリティが高いアレンジ/演奏が施された・・正に大人向けの一流のエンターテインメントだと感じました。
JH : 前作までとは少し違う作品になってすごく嬉しく思う。今までで一番簡単に出来たけど、楽しんで聴ける作品だと思う。ギターソロの音がそれぞれ違うのも気に入っているよ。特にどういう感じでギターを弾くかをプランしてなかったから、トラックを聴いて感覚的に演奏したのを録音したんだ。結果的に自分が思ってもいなかった方向に行けて凄く楽しかったんだ。

MM : アルバムのプロデュース、作曲、アレンジはあなたとDennis Espantmanとの共同作業となっていますが、彼とはどのようにして作業を進めたのでしょうか?
JH : Dennis抜きではこのレコードは生まれなかった。作曲から、ミキシング、マスタリングに至るまで殆ど全ての段階で共同作業したよ。作詞に関してもそう。リリックや曲名のアイデアをお互いに練っていった。どういうサビにするかといったアイデアも歌詞と楽曲を絡めてお互いの案をすり合わせた。いいアイデアが浮かんだらそれぞれが持ち帰って自宅で形になるまで詰めていく。それからお互いにメールで相談して、新しいアイデアができた時に、携帯で簡単にヴォーカルを録音して送ったりもした。そうやってアイデアとファイルを行き来しながら曲へと形成していった。俺達はタイトな構成の曲を作って、大人のリスナーに響かせたかったから、音楽的にもリリックの内容もキャッチーで、俺達が好きだった60年代の音楽が持っていたポップさを意識して作ったよ。

MM : “Doctor’s Orders”や”Little Big Shot”などをはじめとしてアルバムの収録曲には日常の出来事が深く洞察されたユニークな歌詞も多いですね。
JH : そうなんだよ。娯楽性のある個性的なキャラクターを作り上げた。”Doctors Orders”では精力的な中年男性を。”Little Big Shot”ではネット上で自分の事を大きく見せようとするっていう社会不適合者の少年についての歌だ。

MM : アルバムの随所で聴くことができるホーンアレンジも曲を優美に惹き立てています。
JH : ドラムとベースが出来上がった段階で、何曲かにはホーンセクションが必要だと思った。”Blacklisted in Bougainvillea”と”Doctor’s Orders”については、デニスと俺が思いついたホーンのアイデアを、同じくSteely Danで長年一緒にプレイしてきたMichael Leonhartに頼んで楽譜に落としてもらった。“Gimme Some Green” と “Handle Me With Care”のホーンは主にMichael自身が考えたもので、後で俺達が少しエディットした形だ。


Photo by Jon Gorr

MM : “Can I Get A Volunteer”では心地よいペダルスチールギターの音が聞こえてきますが・・。
JH : 本物のカントリーの曲みたいに聞こえるよね。George Jonesが演ったような感じさ。むせび泣くようなスチールギターのソロパートはGordon Titcombを意識したんだ。彼は間違いなくニューヨークのベストプレーヤーの一人だからね。

MM : “Broken And Blue”ではリッチなトーンによるエモーショナルなギターソロが印象的です。
JH : ライブではよくああいうトーンを出すように意識している。そして前作の「Time On My Hands」でも似たような音色でプレイした曲がほとんどじゃないかな。今作ではああいうギターのトーンを使ったのは、その”Broken and Blue”のみだけど、正しい選択だったと思う。俺が持ってる何本かのGibsonならどれでもあんな感じのトーンが出せるけど、多分”Broken and Blue”内で使ったのは Gibson Custom Shop SGだと思う。アンプは Guytron GT100FVか Bludotone Bludo-Driveを使った。オーバードライブのペダルは通さずに、アンプのゲインを高めに設定してそこで少し歪ませると、ああいうダークで太い音色になるんだ。シンプルにギターをアンプに通した音をRoyerのマイクで録ったよ。そこにミックスの段階でリバーブとディレイをかけている。

MM : 今作のようにボーカル中心のアルバムにおけるあなたのギターのアプローチ方法についてバッキング、ソロ、音作りといった観点からお聞かせ下さい。
JH : 俺はギタリストとして知られていて実際にそれで生計を立てているけど、ギターを始めたのと同じ時期から曲を書き歌っている。DennisとFrankとのバンドでも1980年代から作曲とライブをしてきているし、2000年からは俺達でレコードもリリースしてきてからね。だから僕の事をシンガーソングライターとしては知らない人がいるのも理解できるけど、ボーカルアルバムをプロデュースするのは長年やっているのでごく自然な事なんだ。
録音のやり方としては、まず16トラックのテープマシーンに録音した後、ProToolsに各トラックを録り直すという点以外はいたって普通だと思う。まずドラムとベースのリズムセクションをNYはブルックリンのAtomic Soundスタジオで録ったんだ。そこではギターやパーカッションやボーカルなんかを録る事もできるけど、主な目的は俺達が好きなドラムの音をそこでしっかり録ることなんだ。
その後、Pro ToolsのセッションファイルをSohoにある自分のスタジオに持ち込んでベースとなるトラックをエディットしてから、ヴォーカル、ギター、キーボード、パーカッション、ホーン類なんかをオーバーダブしていった。何曲かはベースやギターといった基本的なパートも変更した。
オーバーダブの最終段階として、自分のスタジオでギターソロを録音した。だいたい即興で何テイクか録りながらそのトラックと相性が良く、フレッシュで面白いテイクが録れたら、それをベースにさらにギターを重ね録って、不要な部分を削りながらまとめていく。時々そうやって繋ぎ合わせたギターソロを聴き直して、1テイクで演奏し直したものか繋ぎ合わせたもの、どちらが自然に聞こえるか聴き比べてみる。通しでプレイしたテイクが良い場合も、そうでない場合もどちらもあるね。その作曲と即興による演奏を行き来するプロセスがとても楽しい作業なんだよ。
そうしてオーバーダブが終了したら、各ファイルをSham Sundraのスタジオに持ち込んでミックスダウンしてもらった。その後Fred KevorkianにマスタリングしてもらいCDにプレスして今作が完成したよ。

MM : アルバムで使用しているギター、アンプ、ペダル類について教えて下さい。
JH : 今回使ったギターはLarry Windsock製のテレキャスタータイプ、ギブソンSG、ギブソンCS336、Gretsch6120、ギブソンレスポールのカスタム、Sadowskyネックのフェンダー・ストラト、ゴールドトップのギブソンレスポールでピックアップがP90のもの、NationalのTricone Resonator、Guild D40アコースティックと12弦の Danelectro electric、それらは全部自分のもので、それ以外にも以前保有していたGeorge Benson Ibanezも使用している。使ったアンプは3種類で、GuytronのGT100FV、Bludotone Bludo-DriveとBludotone J-Rod 50だ。
実はペダル類はあまり使っていないんだ。アンプ自体でドライブをかけるほうが好きだからね。ただ“Blacklisted in Bougainvillea”のギターソロではRobert KeelyのSfogatoファズ/ワウペダルをストラトのギターに使用した。

MM : 近年はテクノロジーの進化により様々なギターアンプの音をDAW上で再現、レコーディングできるソフトウェアが数多くありますが、それらについてはどのように感じていますか?
JH : 正直に言って、プラグインは長年使ってないんだ。でも今は昔に比べるとプラグインも凄く良くなってるんじゃないかな。最近Kemper Profilerを使ってみたんだけど、クオリティが高くて驚いたよ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
JH : 「Adult Entertainment」もその他の俺のリリースもぜひチェックして欲しい!すごく楽みながら創ったからみんなも楽しんで聴いてくれると嬉しい。みんな聴いてくれてありがとう!

Jon Herington official site http://www.jonherington.com/


Adult Entertainment / Jon Herington
1. Mind over Matter
2. No Way No How Not Me
3. Doctor’s Orders
4. Blacklisted in Bougieville
5. Little Big Shot
6. Slaughtered by Love
7. Gimme Some Green
8. Can I Get a Volunteer
9. Crazy Good
10. Out on a Limb
11. Broken and Blue
12. Handle Me with Care
https://www.cdbaby.com/Artist/JonHerington1

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