Vol.121 Carl Verheyen / May 2021

Carl Verheyen

英国ロック・グループ SUPERTRAMPでの活動や数多くの有名アーティストのアルバム、そして映画・TVドラマ等のサントラへの参加などLAのスタジオシーンで活躍中のギタリスト Carl Verheyen (カール・ヴァーヘイエン)がニュー・アルバム「Sundial」をリリース。今作は、ロック/ファンク/スカ/ソウルフルなバラード、アフロポップなどの多様な音楽に取り組んだ意欲作。癒しと高揚感のあるタイトル曲 “Sundial” に始まり、アフロポップにインスパイアされた”Kaningie”、アート・ガーファンクルとの信じられない出会いについての記憶を歌にした”Garfunkel (it Was All Too Real)”、ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアに捧げられた曲“Spiral Glide”などの良質な楽曲とともに、カールの味わい深い歌声、ダイナミクスに富んだ巧みなギタープレイ・サウンドが聴き手を魅了する大人で上品なロック・アルバムとなっている。最新作「Sundial」についてカールに語ってもらった。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura

Muse On Muse (以下MM) : コロナの影響でリリースを見合わせていたとのニュー・アルバム「SUNDIAL」が無事に発売されました。現在の心境をお聞かせ下さい。
Carl Verheyen (以下CV) : 気分は良いよ。新作を聴いてくれてありがとう。アルバムの発売は9ヶ月遅れてしまったけど、その間さらに良い内容にする事ができたんだ。出来上がった曲をずっと聴いているうちに、何箇所か変えた方がよりカール・ヴァーヘイエンの曲としてふさわしい曲になると思ったからね。クリーンなストラトキャスターのパートやリッケンバッカーの12弦のギターのパートを加えたりしたよ。

MM : 新作「SUNDIAL」ではバラエティに富んだ様々な音楽ジャンルの素晴らしいエッセンスが散りばめられた聴き心地の良い大人の作品となっています。この作品ではどういったことを目指したのでしょうか。
CV : 気持ちが高まるような音楽を作ってみんなに聴いて欲しかったんだ。みんなが笑顔になり気分が良くなるような音楽さ。それと僕のソロアーティストとしての信条は一つの分野やジャンルに囚われないって事だね。僕がスティーヴィー・レイ・ヴォーンの事を尊敬している気持ちと、残りの人生ずっとブルースだけのアーティストでやっていく事はできないっていう気持ちは、同じくらい強いんだ。他のスタイルの音楽も色々と聴いてエンジョイしてるよ。だから僕のこのアルバムで目指したゴールは自分が好きな様々なスタイルを一つの強い作品に落とし込む事だったんだ。

MM : アルバムに参加しているミュージシャンについて紹介下さい。
CV : 僕のツアーバンドのベーシストであるデイヴ・マロッタとドラマーのジョン・マダーは何曲かで演奏してくれた。ドラマーとしては、プログレの分野で有名なニック・ディヴァージリオもタイトルトラックを担当してくれたよ。他の6曲に関してはここLAでの僕の別バンドであるCranktonesが演奏してくれたんだ。このバンドはジョン・フェラッロとチャド・ワッカーマンの2人のドラマーがいて、”Kaningie” は彼らがアフロポップのスタイルに昇華させてくれたよ。キーボードを主に弾いてくれたのはジム・コックスで、何曲かでミッチ・フォアマンにもピアノを担当してもらった。Cranktonesが演奏した曲の中でトム・チャイルドにも追加でベースを弾いてもらった。あとバッキングシンガーはクレイグ・コープランド、キャット・バウザーとベス・コーエンだね。

MM : アルバムのタイトル曲でありオープニングを飾る”SUNDIAL”は、澄み渡ったサウンドとあなたの歌声、お洒落で工夫された曲の展開がとても印象的です。
CV : この曲の歌詞の内容は、時間の感覚がズレてる人についての曲なんだ。例えばマーケットに行くのに15分かかる、買い物にも15分かかるし帰ってくるのも15分かかるってのに「マーケットに行ってくるよ。15分で戻る」って言う人の話だね。音楽的には挑戦的な内容になったよ。フォークのような始まり方からジャズ/フュージョン的なソロを通過して、騒々しい最後を迎えるって言う構成をしている。このバッキングボーカルを聴くと自然に笑顔になるんだ。

MM : “KANINGIE”は軽快な明るいテンポの中であなたのギターが心地よくメロディを歌い上げるギター・インストゥルメンタル曲です。
CV : あのメロディーは自宅でワイヤレスでギターを弾いていたときに浮かんだメロディーなんだ。ワイヤレスのシステムにして、スタジオの椅子に座らなくても、どこでもギターを弾けるようになったのはありがたいね。そしてこのメロディーが2ドラマーのコンセプトにもフィットすると思ったんだ。友人たちはこの曲を「すごく聴きやすくて耳残りする」と言ってくれたよ。英語ではそういう曲の事をEar Worm:イヤーウォームと言うんだ!

MM : “CLAWHAMMER MAN”や”NEVER AGAIN”、”NO TIME FOR A KISS”などは、ギターファン以外にも広くアピールする素敵なボーカル・ソングとなっています。
CV : “Clawhammer Man” は、Cm7のリックを弾いて、そこから発展していった曲だね。“Never Again”は歌詞的には少し攻撃的な曲だ。僕がちょっとクレージーになった時にこんな音が生まれるんだ!あの曲ではLsLシグネチャーモデルのStratで曲の最後に狂ったワーミーバーのインターバルを入れたんだ。No Time for a Kiss.” でも同じギターを使ったよ。あの曲は実は23才の時に書いた曲で、インストとして何年もプレイしてきたんだ。ファンの何人からあの曲は何だって反応があったから、歌詞を書いて、自分が歌えるキーに変えたよ。ソロの部分はオリジナルのBフラットのキーに戻してメインのメロディーをスタイリッシュにしたような内容のソロを弾いているよ。Jeff Beckにインスパイアされて弾いたソロだね。

MM : The Rascalsの”PEOPLE GOT TO BE FREE”は、メッセージ性が強くパワーを持った曲です。
CV : 僕はRascalsの大ファンでフェリックス・キャヴァリエの声が大好きなんだ。アップテンポなスカ/レゲエの曲として原曲をアレンジするアイデアはCranktonesとジャムしている時に思いついた。それが2ドラマーのフォーマットでも凄く良く聴こえたんだ。でもスタジオでレコーディングしていた時に、偶然のアクシデントで、僕らのヘッドフォンに送るクリック音を、僕が求めていたテンポよりかなり早いテンポで送るようエンジニアに伝えてしまったんだ。録音したトラックを聴いて、「これは早すぎるよ!もう1回録音しなきゃ」と言ったんだけど、エンジニア兼プロデューサーが「この早さがこの曲の良さだ!」と言ってくれた。そしてこのアップテンポなテイクを採用したんだ!

MM : ピアノが美しい”Michelle’s Song”ですが、エルトン・ジョンのこの曲を取り上げたのは何故でしょうか?
CV : ある晩、車をドライブして家に帰宅している時、ずっと聴いていなかったこの曲がラジオから流れてきたんだ。原曲とは完全に違うスタイル、カントリーとオールマン・ブラザーズが混ざったようなスタイルでレコーディングしようってすぐに決めたよ。全ての録音が終わって聴き直したとき、クリーンなStratocasterのフィルをサビに入れる事によって、全てLes Paulで録った曲にバランスが生まれるなと感じたから、自宅スタジオにてKemperを使ってレコーディングしたんだ。

MM : “GARFUNKEL (IT WAS ALL TOO REAL)”は、アート・ガーファンクルとの信じられない出会いについての記憶を歌にしたとのことですが、詳しく教えて頂けますか?
CV : 僕が15才の時、Simon & Garfunkelの“Bridge Over Troubled Water”はラジオでナンバー1ヒットの曲で、僕はピアノであの曲を習ったんだ。その後、家族旅行でカナダに行った時に両親が「今からみんなでルイーズ・シャトー湖そばのホテルへ行くよ。私たちは湖を一望できるバーでお酒を飲む予定だ。子供達は湖畔の岩場で遊んでいなさい。」と言ったんだ。そのホテルのロビーに大きな白いグランドピアノを見つけたから、座って“Bridge Over Troubled Water”を弾いていた。ヴァース1のダウンビートのパートで僕の肩越しから歌声が聞こえて、振り向いたら何と本物のアート・ガーファンクルだったんだよ!多分彼はホテルにチェックインする時に僕を見つけて、この子供を驚かせようと思ったんだと思う。

MM : ピンク・フロイドのデヴィッド・ギルモアに捧げられている曲 “SPIRAL GLIDE” について教えて下さい。
CV : 僕がSupertrampに加入した1985年は、彼らがアルバム“Brother Where You Bound”を作り終えたところだった。アルバムのタイトル曲にはデヴィッド・ギルモアの長いソロが入っていて、そしてそのソロを世界ツアーで演奏するのは僕の役割だったんだ。だけど僕はメンバーに、ギルモアのソロにある強力なメロディーを参考にしつつも、僕のスタイルでソロをプレイした方が良いって説得したんだ。自分でも驚いたんだけどメンバーは僕の意見を通してくれたんだよ。そこからずっとデヴィッドの演奏やトーン、音楽的なコンセプトには生涯感謝しているんだ。この曲“Spiral Glide”は彼とピンク・フロイドの音楽に対するトリビュートだね。

MM : アルバムの最後は、オープニングの”SUNDIAL”に対する美しく幻想的な小曲”SUNDIAL SLIGHT RETURN”で幕を閉じます。
CV : “SUNDIAL”・・このタイトル曲は当初はインスト曲で歌詞は後から付けたものなんだ。このメロディーはスローに弾いても十分に良いって思ったからアレンジを変えて、それがアルバムの最後に上手くはまると思ったんだ。

MM : アルバムで使用しているギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。
CV : ギターもアンプもラックの機材も長年集めているから沢山持っているよ。長い間、スタジオミュージシャンをやっていた時は、いわゆる定番や人気の音を出せるギターやアンプを買っていたんだけど、1997年頃、ソロ・アーティストとして人気が出てからは、自分のオリジナルな音やトーンを作り出すためのギターやアンプを集めるようになった。大体70本のギターと50のアンプ、そして数百個のペダルが僕の武器倉庫に保管されているんだ。好きなアンプは定番のヴィンテージMarshall、FenderやVoxのアンプで、Dr Zのアンプも大好きだよ。僕の3つシグネチャーモデルのLsL CVスペシャルStratocasterのギターと、ヴィンテージのTelecasterとLes Paulはよく使うギターだね。“Kaningieでは1966年モデルのGibson SGを使って、最初から最後までオーバーダブ無しで仕上げたんだ。”Sundial”では1959モデルのMartin D-18 で弾いたよ。

MM : ところで、最近あなたがKemperと手掛けた Carl Verheyen Vintage Amp Collection Kemper Profile Pack についてお聞かせ下さい。
CV : 友人であるエンジニア/プロデューサーのマーク・ホーンズバイと(アンプモデリング機材の)Kemperのソフトで良いアンプがあまり無いと話をしていたんだ。だから僕が持っている28個のアンプと5つのマイクを組み合わせた音をサンプリングして、その音を再現できるパッケージを開発してもらったんだ。使ったマイクはSure 57、Telefunken M-80、AKG 414、Royer 121とNeumann U67で、録音はVan HalenがファーストアルバムをレコーディングしたSunset Sound Studio 2を使用した。このVerheyen Amp Collection for Kemperは、機材サイトの Sweetwater.com で購入できるよ。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
CV : 今年の秋に「Sundial」のアルバムツアーができればと思ってるよ。2つの本格的なツアーがアメリカとヨーロッパで予定されている。そして次のアルバムは、2022年にリリース予定で曲を既に書いているところだね。僕は常にノンストップで練習と曲作りを続けていて休みは1日も無いんだ。昨年のパンデミック渦の中、とても有名なギタリストである友人と話をしている時に、僕たちのツアー続きのキャリアの中で突然発生したこの大きな休息期間を、生産的に、クリエイティブに過ごせているかって聞いてみたんだ。彼は「全然ダメだね。刺激のない日々で、6ヶ月もギターを手に取ってないよ。」って言ったんだ。その事で僕は逆にインスパイアされて、そうかこの時期は新しい曲を作ったり新しいテクニックを学ぶのに最高の機会なんだと気づいたんだ。僕は最低でも1日2時間は作曲に1時間をギターの練習に費やしているよ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
CV : 長年のサポートに感謝しているよ!「Sundial」のアルバムが君達に喜びを与える作品で、みんなが笑顔になってくれたら嬉しいよ!

Carl Verheyen official site https://carlverheyen.com/


Carl Verheyen / Sundial

1. Sundial
2. Kaningie
3. Clawhammer Man
4. Never Again
5. Garfunkel (it Was All Too Real)
6. People Got To Be Free
7. Spiral Glide
8. Michelle’s Song
9. No Time For a Kiss
10.Sundial Slight Return