Vol.106 Nili Brosh / February 2020

Nili Brosh


Photo by Dana Tarr

トニー・マカパインのバンドでのギタリストとしての活動などを通してその確かなギターテクニックでファンからも注目されていた女性ギタリスト Nili Brosh (ニーリー・ブロッシュ) が、3作目となるスタジオ・ニューアルバム「Spectrum」をリリースした。ロックギタリストのインストゥルメンタル作品の場合、曲中をギターで埋め尽くすものも多く存在するが、ニーリーの最新作「Spectrum」は、卓越した作曲センス、キーボード、アコーディオンやヴァイオリンを配す等の細部にまで綿密に構築されている楽曲、表現力に溢れた素晴らしいギタープレイを背景にロック音楽、ギターミュージックといったフィールドに留まらない豊かな音楽性に溢れた素晴らしい作品となっている。ニーリー・ブロッシュにアルバム「Spectrum」について訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo by Jake Albrecht

Muse On Muse (以下MM) : 最新作「Spectrum」では卓越した作曲センス、細部にまで綿密に構築されている楽曲、表現力に溢れた素晴らしいギタープレイを背景にロック音楽、ギターミュージックといったフィールドに留まらない豊かな音楽性に溢れた素晴らしい作品ですね。
Nili Brosh (以下NB) : ありがとう!私にとってこの作品はただ曲を集めたものじゃなくて、アルバムを通して一つのジャンルから違うジャンルへと紡がれていく連続体のような作品なの。今流れてる曲はその前の曲と共通している部分があって、その次に続く曲にも繋がりがあるという風にね。その共通項は音楽的なキャラクターだったり、ハーモニー的なものだったり、楽器であったりするんだけど、その繋がりが、音楽にジャンルは関係ない。音楽は音楽なんだってことを証明しているの。

MM : この作品ではどのようなことを目指しましたか?
NB : このアルバムは、一つのジャンルから次のジャンルまでの移行がスムーズでリスナーを驚かせることができる作品にしたかったわ。みんなにこのアルバムを初めから最後まで一気に聞かせて「いつの間にか最後まで聞いてしまった」と思って欲しかったからね。

MM : アルバムのジャケットのアートも音楽同様に美しく魅力に溢れていますが、アルバムジャケットについて教えて下さい。
NB : アルバムのジャケットはニック・フルックっていうカナダのアーチストに実際のキャンパスにアクリル絵の具で描いてもらったわ。彼は最高のアーチストで私たちはずっと一緒に仕事がしたかったの。だから今回のアルバムのコンセプトと、ピアノやアコーディオンを弾いているキャラクター等何点かアートワークに加えてほしい点を伝えて、あとは全て彼のイマジネーションで描いてもらった。完全に自由な発想で作品の世界観に合ったアートを作ってくれたわ。実は彼はアルバムの大部分を聞いてないの。だから出来上がった絵がアルバムにフィットしているのを見て驚いた。恐らく私たちは感覚が近くて、素晴らしい化学反応を生み出せる2人なんだと思う。だから出来上がりにはすごく満足してる。

MM : アレンジも含めてかなり作り込まれている作品ですが、作曲やアレンジのプロセスについて詳しく教えて下さい。
NB : まず私が全曲、全ての楽器とラフなギターのトラックをプログラムして共同プロデューサー兼キーボード・プレーヤーのアレックス・アルジェントに送って、彼がデモの音やアイデアを膨らませてトラックを再構築した。次に私とアレックスでどのトラックをミュージシャンに演奏してもらって、どのトラックをダンスミュージックのようにプログラムで作るかを相談した。その後残ったピース、つまり私のギター曲の空いている部分に乗せていくって流れだった。

MM : アルバムのオープニング曲である”Cartagena”、それに続く”Andalusian Fantasy”でのスパニッシュなギター、音楽に良い意味で意表を突かれました。
NB : ありがとう!以前の作品を知っているリスナーにとっては予想外な感じだったと思う。このアルバム内の全てのメロディーはまず私の頭の中に浮かんだもので、そのメロディーをどの楽器で、どんなアレンジで曲にしていくか自分に問いかけるの。”Andalusian Fantasy”に関しては簡単にイメージできたんだけど、”Cartagena”のような曲は何回も実験が必要だった。多くの楽器や複雑なアレンジメントをい色々試した結果、ギターとベースとパーカッションだけのシンプルな構成が合っているって気付いた。

MM : “Circus Wedding”、”Rachel In Paris”ではアコーディオンやヴァイオリンが曲に実に味のある雰囲気を与えています。
NB : 頭の中に浮かんだメロディーを聞いた時、そこに合うのはギターではないと思った。私が最優先しているのはその音楽に対して何をするのがベストかって事。やり過ぎたエレキギターだけが曲を引っ張っていくような曲を書く事じゃない。このメロディーにはアコーディオンが良いなって思ったら、まずそのアイデアを実際に試してみて、私のギターが必要だなって思ったら加えるし、もし必要なければそれで私は全く構わない。

MM : “Solace”ではグルーヴ感あるリズムギター、そしてクレバーでエモーショナルなギターのフレージングが聴き手を惹き込みます。
NB : 私が人生の中で体験した一番難しい時期が終わる頃に浮かんだのが“Solace”のメインのメロディーなの。こんな緩やかなメロディーに私は癒されたわ。タイトルのSolace(慰め)の意味どおり自分が回復していくように感じた。音楽的な観点と曲に込められた意味の両方の理由でトランペットのソロが必要だった。このSpectrumというアルバムの中間点の曲であり、そこからヘヴィーで歪んだ音楽へと繋ぐ中継点でもある。


Photo by Derek Sampson

MM : プログレッシヴでドラマチックな曲の構成である”Retractable Intent”、”Desert Deja Vu”とテクニカルでシュレッドなギタープレイ、そして華やかなキーボードのアレンジとヘヴィなギターが融合した”Djentrification”と続く流れはロックギタリストとしてのあなたの魅力が全開です。
NB : 嬉しい、ありがとう!もし曲の流れがスムーズって思ってくれるなら、自分の仕事を果たせたって事ね。このアルバム制作の中で曲順はとても重要な要素だったから。ジャジーな雰囲気の”Solace”からヘヴィーなフュージョンでエキゾチックな雰囲気を持った”Retractable Intent”に上手くつなげたかったの。次にダンス・ミュージックの要素とプログレッシブ・メタルへシフトさせたかったから”Retractable Intent”の後には”Desert Deja Vu”、”Djentrification”へと繋げた。

MM : 美しく感動的なメロディが印象的でミュージックビデオも公開されているに”Primal Feels”ついて教えて下さい。
NB : ポップ/ダンス音楽の要素を取り入れたキャッチーなギター・インスト曲っていうのが当初のアイデアだった。だからこの曲はシングル曲にもなった。ミュージック・ビデオに関してもポップミュージックのスタイルを取り入れた作品にしたかった。もし私がMTVスタイルのビデオを作るならどんな感じになるのかを考えたわ。このPrimal Feelsをアルバムのどこに配置するかを考えた時、メロディックで作品的にもクライマックスにふさわしいと思ったから、同じダンスの流れで”Djentrification”の後、”Resistance Piece”と共にアルバムを締めくくる流れにしたの。

MM : “Resistance Piece”でもキーボードサウンドとあなたのギターの融合が印象的です。ロックギタリストのインストゥルメンタル作品の場合、曲中をギターで埋め尽くすものも多くありますが、あなたの作品ではセンスあるキーボードが要所に配置されたアレンジが曲をドラマチックに惹き立てています。
NB : アコーディオンやバイオリンを使った時と同じ考え方で、そのメロディーにどの楽器を弾くべきかを考えて、”Djentrification”や”Resistance Piece”ではキーボードのメロディーだなと思った。それから私のギターをどう上手く合わせるかを試した。だからこの曲ではギターがキーボードを補っていて、その逆ではないの。

MM : 今作はギタリストによる作品といった小さなカテゴリーに収まるものではなく、作曲・アレンジ・プロデュースといったミュージシャンとしての総合力の秀逸さが際立っていますがそれについては意識していましたか?
NB : そうよ。ただのギターアルバムにはしたくなかったから。私の基本的な音楽に対する考え方がそうなの。その音楽自体がどうありたいかっていう声に耳を傾けるの。その結果ギターから離れてしまっても構わない。

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類、弦、ピックを教えて下さい。
NB : アイバニーズのエレキギター(RG1527, RG2727, RG550, AS93)、コルドバの GK Studio Negra nylon stringのギターを使っていて、アンプはPeavey JSXとEgnater Tournmaster 2×12のキャビネットを使ったわ。Xotic effects EP Boostaerと、Dean MarkleyのBlue Steel strings (9-42, 7弦目は54)、ピックは2ミリのDunlopのBig Stubbyを使った。

MM : 今後の予定について教えて下さい。
NB : ジェニファー・バトゥンとグレッチェン・メンとでライブやギターのコースを企画しているところよ。ライブでは新作からの曲をやるわ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
NB : Spectrumのアルバムを聴いてくれて、そしてこのインタビューを読んでくれてありがとう!  ツアーで会いましょう!

Nili Brosh official site  http://nilibrosh.com/


Nili Brosh / Spectrum

01. Cartagena
02. Andalusian Fantasy
03. Circus Wedding
04. Rachel In Paris
05. Solace
06. Retractable Intent
07. Desert Deja Vu
08. Djentrification
09. Primal Feels
10. Resistance Piece