Vol.81 Carl Verheyen / January 2018

Carl Verheyen

数多くの有名アーティストのアルバムや映画・TVドラマ等のサントラへの参加、そして自身のバンドCarl Verheyen Bandで活躍中のギターの匠 Carl Verheyen (カール・ヴァーヘイエン)。
2016年発表のオリジナル・スタジオ・アルバム「The Grand Design」とそれに伴うツアーでも好リアクション・評価を得たカールは、新たにブルース・アルバム「Essential Blues」をリリース。本作品では、様々なブルース・スタイルがライヴ形式でレコーディングされており、ギターの匠ならではのギターの表現力、トーンはもちろんのこと優しく温かみのあるカールの歌声が秀逸。ギターミュージックの音楽ファンはもちろんのこと、幅広いジャンルの音楽ファンにとっても非常に魅力的な作品となっている。
最新作「Essential Blues」についてカールに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

Muse On Muse (以下MM) : 2017年の秋に行われた THE ESSENTIAL BLUES TOUR におけるヨーロッパ各地でのライヴは如何でしたか?
Carl Verheyen (以下CV) : とても素晴らしいツアーだったよ。今回もイタリア・ナポリのキーボード奏者Marco Corccioniに参加してもらった。彼はとても素晴らしいプレイヤーで、良い耳を持っている。私がソロを弾いている時も瞬時にコードを追って完璧に伴奏をしてくれる。今回のツアーでは始めてポーランドでも公演を行い、反応もとても良かったよ。多くのお客さんに「長年来てくれるのを待っていた」と言われたのも嬉しかったね。とても歓迎されていた感じがして良かったよ!

MM : ブルースに特化した最新作「ESSENTIAL BLUES」を作ることになった経緯をお聞かせ下さい。
CV : 元々は過去にレコーディングしたブルース系の曲をコンピレーション・アルバムとしてリリースするつもりだった。『Slang Justice』に入っている”Two Trains Running”や”Down Like Hall”と『Trading 8s』に入っている”New Years Day”のような楽曲を並べようというアイディアだった。しかし、プロデューサーはそこで私に新たなチャレンジを与えてくれた。それは3日間で新しいアルバムを完全ライヴでレコーディングするというものだった。1ヶ月の期間で選曲やアレンジ等の準備をしてレコーディングに臨んだ。

MM : アルバムの参加メンバーについて紹介下さい。
CV : 古くからの友人でもあるJim CoxにハモンドB3オルガンを弾いてもらった。ベースとドラムはインディアナ州フォートウェイン在住の二人に参加してもらった。JimはJames Taylorとの仕事を終えて香港から直接飛行機で駆けつけてくれた。ベースのDave MartinはナッシュヴィルのミュージシャンでWestern Swingの殿堂入りをしている人でもある。Nick D’VirgillioはTears For FearsからSpock’s Beardまで様々なアーティストと仕事をした経験を持つ素晴らしいドラマーだ。彼らは何でも演奏できるし、一緒に仕事ができてとても嬉しかったね。

MM : アルバムでは、Delta blues, Piedmont blues, Chicago, Texas, British blues からjazz blues、R&B-funk bluesといったブルース・スタイルがプレイされています。それぞれのブルース・スタイルに取り組む上での音楽的な特徴やプレイする上での違いなど、あなたによる解釈をお聞かせ下さい。
CV : 様々な地域に存在する異なるスタイルがブルース・シャッフルに与える影響を以前から楽しんでいたよ。テキサスの人たちはシカゴの人たちとは全く違ったフィーリングを持っている。そしてイギリスの人たちもまた違ったプレイをする。実際にインタビューで説明するよりも弾いてみせた方が早いとは思うけど・・・例えば、Chicago bluesの場合はシャッフルのスウィングが少しハードな感じがしてTexas bluesのシャッフルはもう少しノリが大きい。Piedmont bluesはギタリストがストライド・ピアノの音を真似ている。Jazz bluesはトラディショナルなI、IV、Vの進行に加えて更に6つのコードチェンジが追加される。これによって実際のジャズ曲のような変化に富んだ曲を演奏しているかのような感じになる訳だ。

MM : レコーディングはライヴ・スタイルで行われたとのことですが、詳細について教えて下さい。
CV : ヴォーカルも含めて全てライヴ録音されている。もう何年もライヴで演奏しているものの、どうしても頭がまずギターに行ってしまい、ヴォーカルはその次になってしまうところが最も苦労したポイントだね。今回のレコーディングではその順序を逆にするように努力した。同じ部屋の中で全員がレコーディングしている訳だから、万が一ヴォーカルがフラットしたり音程がズレてしまうとドラムのマイクが拾ってしまうことがあって、それを後から修正しようとしてもいかにも修正した感じが残ってしまうからね。

MM : アルバムではフレディ・キング、ピーター・グリーン、レイ・チャールズ、アルヴィン・リーといった偉大なミュージシャン達の曲を取り上げ、プレイされていますが、数多くのブルース曲の中からこれら曲を選び出した理由について教えて下さい。
CV : 選んだ曲の殆どは十代の頃に覚えた曲だったので、自分にとって大きな意味を持つ曲でもあった。その頃から長い年月が経った今、エリック・クラプトンやマイク・ブルームフィールド等、これらの楽曲をカヴァーした多くの人々とはまた違った主張をしてみたいという気持ちになったのが大きな理由だ。

MM : あなた自身の曲である”STEALING GASOLINE”、”DODGING THE BLUES”、”STARDUST BLUES”について説明下さい。
CV : “STEALING GASOLINE”は自分が17才の頃に実際起こったことを題材にしている。私はロサンゼルスで育ったが、当時はよくサンフランシスコまでドライヴして色んなコンサートを観に行った。シスコのバンドはロスのバンドとはまた違ったものがあった。十代の頃は何事も行き当たりばったりで、サンフランシスコに向かう途中で夜中にガソリンスタンドが開いていない時間にガス欠になったことが何度かあってね。その時の経験を歌った曲だ。”DODGING THE BLUES”は友人のMark Dodgeのために書いた曲。彼は長年ALSと闘った末に亡くなってしまった。彼が亡くなった日にこの曲を書いた。そして”STARDUST BLUES”はDのキーでスローなブルース曲に仕上がっている。元々は明るい響きがあるキーをあえてダークに聴かせるというテーマにチャレンジした曲だ。

MM : ギターをプレイしたり歌う上でブルースならではの表現することの難しさなどはありますか?
CV : 私が憧れる最も優れたブルース・ミュージシャンというのは、演奏中に自らの心を曝け出すミュージシャンだ。例えば”Voodoo Chile”(Slight ReturnヴァージョンではなくElectric Ladylandのロングヴァージョン)を歌うJimi Hendrixや”Have You Ever Loved A Woman”を歌うEric Clapton、”See That My Grave Is Kept Clean”を歌うBB Kingがとても理想的だ。そういったフィーリングを自ら曝け出すにはともかく掘り下げていかないといけない!

MM : 今作でも素晴らしいあなたのギターのトーンを聴くことができます。勿論、プレイする人の腕前が最重要だと思いますが、ギター、アンプで良い音を作りこんでいく際のあなた流のアプローチ方法、プロセスについてお聞かせ下さい。
CV : ギターのトーンというのは弾いている本人の手から来るものだと信じている。しかしながら楽器のセッティングも大きな要因になっているのは確かなことだ。自分のギターは音のビビリやネック上で音が詰まらないように弦高を十分な高さに設定している。一番低い音符から一番高い音符までクリアに鳴るようになっている。LsLのシグネイチャー・ストラトは常にメンテナンスをしてある状態に保っている。それはプロとしてあたり前のことだ。楽器を手にする度に自分自身を映し出すものだと私は思っているよ。

MM : レコーディングで使用しているギター、アンプなどの機材を教えて下さい。
CV : 沢山のギターやアンプ、ペダル類を使って音を重ねていく普段のCarl Verheyen Bandアルバムのレコーディングとは違い今回のレコーディングではギター2本、アンプ2台、そして4つのペダルしか使っていない。ギターはCV Special LsLストラトとLsL Soledadテレキャスタースタイルの2本を使用した。ネック側にはP-90、ブリッジ側にはハムバッカーを搭載してある。アンプは自分の1968 Plexi Marshall(1968年製50ワット)とスタジオにあった2 x 12 VOX AC-30キャビネットを使った。クリーン・サウンドを出したい時はFender Deluxeのリイシューに切り替えた。これもスタジオにあったものだ。少ない機材でレコーディングをするというチャレンジを楽しませてもらったよ。

MM : 近年ではDAW上で容易に優れたアンプ、エフェクトを得られるプラグイン・ソフトウェアなどがあります。それらについてはどのように感じますか?
CV : スタジオの仕様上こういったプラグインを仕事で使わなければならなかった状況も確かにあったけど、自分の作品で使うことはないだろうね。良い音鳴りがする部屋でマイクをきちんとセッティングした時に初めて得られる音を包むような「空気感」を私は常に求めている。普段、自分のレコーディングをする際、テイクを録る前にエンジニアがブースの中を歩き回りその部屋の中で最も良い音鳴りがする場所を特定してそこにアンビエント・マイクを置くようにしている。アンプの前に立っているマイクとは別にもう1本立てる訳だ。

MM : ところで、あなたのサイトではオンラインの学習コンテンツ「CV ACADEMY」が開設されました。また、MUSE ON MUSEにおいてはプレイヤーに対する演奏診断アドバイザーとして携わって頂いています。 これらを通じてあなたはどういったことを受講者に伝え、学んでもらいたいですか?
CV : 自らの手で楽器を鳴らして音を作り出す喜びを伝えていくのが私の希望だよ。パソコンでプログラミングをしてリズムを作るのとは全く異なることだ。次世代の人々はインターネット等を活用して我々の世代よりも音楽を更に進化させていくことができるだろう。Derek TrucksやJoe Robinsonを聴けば、それが既に現実として始まっていることがよく分かるね。自分の一番好きなスタイルだけでなく、全ての音楽スタイルを学ぶことが重要だと私は思っている。何故なら、異なる音楽スタイルを混ぜ合わせることによって音楽が進化していくからだ。Tony Riceのようなブルーグラス系のプレイヤーがPat Marinoが弾くようなジャズ・フレーズを弾いているのを聴くと最高な気分だ!そうやってジャコ・パストリアスやポール・マッカートニーのようなイノベーターが生まれるのだよ。

MM : 2018年の抱負をお願いします。
CV : 今まで演奏した会場よりもワンランク大きなサイズの会場で演奏できるように常にチャレンジしているよ。それと、何よりも今年は日本に行きたいね!

MM : ファンへの新年のメッセージをお願いします。
CV : 長年、私を応援し続けてくれてありがとう!FacebookやEメール等で皆さんから色々とメッセージをもらえるのも嬉しく思っています。もし、あなたがギタリストなら新年の決意として毎週ひとつのフレーズを書いてみて下さい。CメジャーもしくはAマイナーから始めて、12のキー全てを網羅して下さい。そうすれば4月までにはかなり上達しますよ!

Carl Verheyen official site : https://carlverheyen.com/
Carl Verheyen facebook : https://www.facebook.com/carlguitar/
Carl Verheyen twitter : https://twitter.com/carlverheyen


Carl Verheyen / ESSENTIAL BLUES
https://www.carlverheyen.com/store/

1. I TAKE WHAT I WANT
2. SOMEDAY AFTER A WHILE
3. STEALING GASOLINE
4. DODGING THE BLUES
5. GOOD MORNING JUDGE
6. YOU DON’T LOVE ME
7. STARDUST BLUES
8. I MAY BE WRONG / CLOSING TIME JAZZ
9. OH WELL
10. HARD TIMES