Vol.18 Steve Hackett / December 2012

Steve Hackett


Photo : Lee Millward

スティーヴ・ハケットによるジェネシス時代の作品トリビュート第二弾「Genesis Revisited II」がリリースされた。前作「Genesis Revisited I」に続く今作品でもスティーヴは多くの素晴らしいゲストを招き、古くからのジェネシスファンは勿論のこと、当時のジェネシスを経験したことが無い新しい世代の音楽ファンをも強く惹きこむであろう素晴らしい音世界を創り上げることに成功している。今回の作品についてスティーヴに語ってもらった。


Photo : Tina Korhonen

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : 前回の作品「Genesis Revisited I」に続く第2弾「Genesis RevisitedII」が遂にリリースされましたが、UKのチャートでは初登場24位とアルバムに対する反応も良いようですね。
Steve Hackett (以下SH) : 反応は驚くほどポジティヴなものばかりだ。このような良い反応を得ていることに僕はとても興奮しているし、過去の楽曲を作り直したことに対して大きな興味を示してもらえて嬉しく思っている。

MM : 前作のリリース時にも聞かれたかとは思いますが、ジェネシスの作品を取り上げ再びレコーディングしようと思った背景について改めてお聞かせ下さい。
SH : あの頃に作った音楽を僕はその後もずっと愛していた。当時の作品を最新のレコーディング技術を使ってもう一度作り直すことで、楽曲に更なる深みを出したいという気持ちがあった。それに、自分の解釈で楽曲を仕上げたいという気持ちもあった。例えば、1曲目のイントロは元々メロトロンが入っていたけど、それをナイロン・ギターとオーケストラに変えてある。それに、ギターパートは以前のものよりサスティーンが効いている。FERNANDESという日本のギター・メーカーのおかげでもあるよ!

MM : 今回のアルバムは前回の「Genesis RevisitedI」(全11曲)の収録曲を上回る全21曲の2枚組のボリュームとなりましたが、選曲についてはどのような観点で行われたのでしょうか?
SH : ともかく自分が好きだと思うものを選ぶようにした。それと、ギターが強くフィーチャーされている楽曲を選んだつもりだ。

MM : 多くのファンに長い間愛聴され続けているジェネシスの作品を再度レコーディングする上でその音楽、サウンド面についてはどういった観点で彼らファンにアピールすることを考えましたか?
SH : ともかくアレンジに関しては原曲に忠実に再現した。その分、サウンド面では新たな機材を駆使して細かいニュアンスに更なる奥行きを与えることに没頭したよ。原曲が持っている魂に敬意を表すのと同時に、楽曲に新たな命を吹き込み、新鮮さを与えたいと思いながら作り直したよ。

MM : 当時のジェネシスの作品を、現在のあなたの視点で再びレコーディングすることで新たな発見等はありましたか?
SH : 全ての楽器をよりバランスよく聴かせることができた。これは、参加してくれたミュージシャンたちが同じ気持ちを持ってレコーディングに臨んでくれたことによって叶えられたことだ。当時のアイディアを損なうことなく、新たな方法論を探し出したいという気持ちがあった。その中で新たな発見もあった。例えば、”The Chamber of 32 Doors”ではファズ・ボックスを3台繋げて音を共鳴させることによって、遠くで鳴り響いているような怒りに満ちた音を作ることに成功した。それと、耳が聞こえなくなるほど大音量でアンプを鳴らすよりもプラグインを使うのも効果的だということが分かった。ギターにリヴァーブをかけることによって不気味な雰囲気をかもし出すことも発見だった。不安でありながらも包み込まれるような雰囲気を作ってくれる。今回の作業の中で、奥行きというものを生み出すことができた。限りなく細かい作業だけどね。

MM : 大勢のミュージシャンが作品に参加していますが、彼らとのレコーディング作業はどのようなプロセスで進められたのでしょうか?
SH : 殆どのミュージシャンやシンガーは自分たちの自宅やスタジオで作業をして、各パートを録り終えた時点で音を送ってくれた。あとは僕とロジャーがその音を上手く混ぜ合わせる作業をしたのさ。


Photo : Lee Millward

MM : “The Chamber of 32 Doors”ではナイロン・ギターによるオープニングが実に印象的ですね。
SH : クラシックとジャズとフラメンコを混ぜ合わせるアプローチだ。水が渦を巻くかのような音を狙っていたんだ。それと、ギターの音にはまるでフル・オーケストラが鳴っているかのような感じがある。

MM : 大作”Supper’s Ready”ではIt BitesのメンバーであったFrancis Dunnery(Francisは”Dancing With the Moonlight Knight”にも参加)やOPETHのMikael Akerfeldtが参加していますが、彼らに参加を依頼した経緯についてお聞かせ下さい。
SH : FrancisはDave Kerznerを通じて今回のプロジェクトのシンガーとして薦められた。Francisは素晴らしい仕事をしてくれたと思っているよ。Mikael Akerfeldtは、彼がSteven Wilsonと仕事をしている時に歌っているのを聴いたことがあり、すぐに彼の歌声を気に入った。歌い方は少し異なるけど、二人ともとてもソウルフルな歌を歌うし、ジェネシスの音楽に対する愛情を強く感じることができる。

MM : この曲にはPhil Collinsの息子であるSimon Collinsも参加していますね。 
SH : 何年か前にSimonと一緒に仕事をする機会があった。彼は父に似てとても素晴らしい素質と才能を持ったミュージシャンだということに気づいた。彼も、成長し続ける中で自分のスタイルや存在を確立しはじめているのは素晴らしいことだと思っているよ。

MM : “The Lamia”ではNik Kershawの歌や美しいギターによるソロが感動的なナンバーですが彼にこの曲で参加を依頼した経緯についてお聞かせ下さい。
SH : 彼はNick Beggsに紹介してもらったんだ。彼は素晴らしい歌声の持ち主で、奥深く感情的な歌によって”The Lamia”に新たな一面を与えてくれた。


Photo : Tina Korhonen

MM : アルバムに参加しているミュージシャン達は誰もが、自らの個性を活かしつつ曲と見事に一体化し華を添えています。彼らの個性と伝統あるジェネシスの楽曲とを融合させる上であなたはどういった観点で作業に挑んだのでしょうか?
SH : まず、優れたミュージシャンであることだけでなく、ジェネシスの音楽に対する愛情を持っているかどうかが参加メンバーを選ぶ重要な判断基準でもあった。今回、アルバムに参加してもらったミュージシャンたちは、作品に新たな炎を与えるだけでなく、作品が元々持っている要素を大切にしてくれている。自分自身のプレイにおいても同じようなアプローチをとったよ。

MM : あなたのソロアルバムから取り上げられている”Please Don’t Touch”は素晴らしいギターインストルメンタル曲です。あなたが以前に結成していたGTRのアルバムに収録されていた”Hackett To Bits”でもこの曲のメインテーマが取り入れられており、かなり思い入れがある曲であることが感じられます。今回この曲を再びレコーディングしようと思った経緯をお聞かせ下さい。
SH : この曲はロック・ミュージックというジャンルの中で最も気に入っているメロディーを誇る曲だ。元々、”Wot Gorilla”と絡めてリハーサルで演奏していたことでもジェネシスと深い繋がりを持っている。”Please Don’t Touch”のハーモニー部分は東洋系の音楽から影響を受けていて、自分がバンドから脱退した時期に最も演奏したいと思っていた曲のひとつでもある。自分のソロ・キャリアの中で代表曲でもあった。

MM : “The Lamia”ではSteve Rothery、”The Return of the Giant Hogweed”でRoine Stolt、”Shadow of the Hierophant”ではSteven Wilsonがギターでアルバムにクレジットされています。ギタリストであるあなたが彼らにギターで参加してもらおうと考えた背景についてお聞かせ下さい。
SH : それは、彼らが偉大なミュージシャンだからだよ。それに、彼らはアルバムのコンセプトについてもアイディアを出してくれる優れた思想家でもあるからだ。アルバム全体の雰囲気作りにも大きく貢献してくれている。僕たちは常にお互いを刺激し合いながらお互いから色んなことを学べる仲なんだ。

MM : “Ripples”や”Shadows of the Hierophant”ではAmanda Lehmannの歌が見事に曲にマッチした雰囲気を創り上げていますね。
SH : 彼女はとても素晴らしい歌声を持っている。ある意味、カメレオンのような存在でもある。何故なら、彼女は様々なスタイルの歌を歌える実力を兼ね備えているシンガーだからね。彼女が作品にもたらしてくれたコントラストはともかく素晴らしい。それに、彼女の声には美しい音色がある。


Photo : Lee Millward

MM : “…In That Quiet Earth”、”A Tower Struck Down””のようなインストゥメンタルの曲は歌詞が無い分、歌詞を持つボーカル入りの曲と比べると聴く人に直接的なメッセージを伝えることが難しい反面で聴く人に自由なイマジネーションを与えるようにも感じます。アルバムの中におけるこれら曲の位置づけについてはどのようにお考えでしょうか? 
SH : 自分が少年だった頃、よくラヴェルのボレロを聴いていた。素晴らしいメロディーというのは、決して歌や歌詞に頼らないという証明でもある。それに、インストゥルメンタル曲であることによってリスナーに想像力を働かせる余地を残してくれるという素晴らしさもある。

MM : “Afterglow”では前回に続きJohn Wettonが情感溢れる見事な歌を披露していますね。
SH : そうだね、ジョンは素晴らしい声をしているよ。KING CRIMSONの頃から彼の歌が好きだった。それ以降、彼の歌声はどんどん進化して、より素晴らしい歌声へと成長し続けていった。彼の歌には心があり、そして感情がこもっている。だからこそ、ジェネシスの楽曲を歌わせると素晴らしく聴こえる。

MM : 前回のSQUACKETTに関するインタビューでは、レコーディングでフェルナンデスのギター、Yairiのナイロン・ギター、Zemaitisの12弦、それにCoralのシタール・ギターなどを使ってSans Ampを通してLogic Proで録音をしたそうですが、今回のレコーディングで使用したイクイップメントは前回と同じものなのでしょうか?
SH : そうだ。今回も同じ機材を使っている。それに加えてYairiのスチール6弦、1957年のレスポール・エレキも使っている。

MM : テクノロジーの進化により現在ではレコーディング環境が大きく変わり、ギターにおいても様々なギターアンプをコンピューター上でシミュレートし実際にスタジオで鳴らすこともなく録音できる時代となりました。あなた自身は現在のようなレコーディング環境についてどのようにお考えでしょうか。
SH : 現代のレコーディング技術は我々に今までにない様々な選択肢を与えてくれる。ヴィンテージ系の機材を使うこともできるが、それ以外にも様々な方法で良い音を録音することが可能になっているし、新たなる道を追求していくこともできる。例えば、最新のサスティーナー・ピックアップを使うことによって不気味な亡霊の叫び声のようなサスティーンを実現することができるようになった。まるで宇宙船が飛び立つかのような凄まじい効果が得られる!

MM : 2013年には2013 Genesis Revisited tourが予定されているようですが、ショーはどのような内容になるのでしょうか? 今回アルバムに参加したミュージシャン達の参加はあるのでしょうか?
SH : Genesis Revisitedのショウではジェネシスの代表曲をフィーチャーし、Roger King、Rob Townsend、Gary O’Toole、Lee Pomeroyが参加する予定だ。また、Nad Sylvanをヴォーカリストとして迎える。勿論、自分も歌う予定だ。全員、アルバムに参加しているメンバーだよ。

MM : 「Genesis RevisitedII」について日本のファンへメッセージをお願いします。
SH : 自分がこのアルバムを作る時に楽しんだのと同じように、日本のリスナーの皆さんが聴いて楽しんでくれることを願っています。2013年には日本で皆さんにお会いできることを楽しみにしています!

 
Steve Hackett Official Site : http://www.hackettsongs.com/ 



Genesis RevisitedII / Steve Hackett
IECP-20218/219  ¥4,410 (税抜¥4,200)  WHD Entertainment

Disc 1:
1.The Chamber of 32 Doors
2.Horizons
3.Supper’s Ready
4.The Lamia   
5.Dancing with the Moonlit Knight
6.Fly on a Windshield
7.Broadway Melody of 1974
8.The Musical Box
9.Can-utility and the Coastliners
10.Please Don’t Touch

Disc 2:
1.Blood on the Rooftops
2.The Return of the Giant Hogweed
3.Entangled
4.Eleventh Earl of Mar
5.Ripples
6.Unquiet Slumbers for the Sleepers
7.In That Quiet Earth
8.Afterglow
9.A Tower Struck Down
10.Camino Royale
11.Shadow of the Hierophant