Vol.151 Francis Dunnery / April 2026

Francis Dunnery

幼少期の記憶、家族との複雑な関係、そして英国の“ありふれた日常”。最新作『England’s Tales Of The Council House Kid』で、フランシス・ダナリーは自身の人生に深く根ざした物語をこれまでになく率直なかたちで描き出した。アコースティックギター、ピアノ、フィドル、マンドリンを基調とした温かなサウンドは、時に痛みを伴う過去の記憶を優しく包み込みながら、聴き手に静かな余韻を残していく。そこにあるのは、派手な技巧や複雑な構築美ではなく、“感情をそのまま音楽にする”という彼の純粋な創作哲学だ。「自分が歌っていることを信じるのが大切なんだ」と語る彼は、本作を通して、自らの原風景を見つめ直すと同時に、音楽の本質をあらためて提示してみせた。今回はそんな『England’s Tales Of The Council House Kid』について、作品に込めた想い、シンプルなサウンドへ回帰した理由、そして現在の人生観まで、じっくりとフランシス・ダナリーに語ってもらった。

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Muse On Muse (以下MM) : ニューアルバム『England’s Tales Of The Council House Kid』は非常にパーソナルな作品とのことですが、本作を制作しようと思ったきっかけ、そして今このタイミングで発表しようと思った理由を教えてください。
Francis Dunnery (以下FD) : 自分の作品はすべてパーソナルなものだと思っているよ。常に自分自身の人生に根ざした意味のある歌を歌いたいんだ。ラッパーたちが自分の育った街について歌い、ブルース・スプリングスティーンが自身の故郷について歌うのなら、自分が自分の育った場所について歌わない理由はないだろう。自分が歌っていることを信じられるというのは、とても大切なことなんだ。

MM : 本作では過去の記憶や経験が率直に描かれていますが、それらを楽曲として表現するうえで意識したことは何でしょうか。
FD : 英国のごく普通の暮らしについては、あまり歌われることがない。僕自身、とても平凡な英国の子供時代を過ごした。でも、多くの英国人アーティストがアメリカ訛りでアメリカの土地や人々について歌っているのを見てきたんだ。自分の子供時代のすべてを英国で過ごしたのに、その“普通の英国の生活”について歌わないなんて不自然なことだ。だから曲を書くときは常にそのことを意識していた。

MM : 本作の楽曲制作では、歌詞、メロディ、コード進行のどれが最初に生まれるのでしょうか。あなたの作曲プロセスについて詳しく教えてください。
FD : 僕の場合、まず最初に来るのは“感情”だ。いつも、自分の感情を音楽に変換して、聴いた人にも同じ感情を体験してもらいたいと思っている。曲というのは完成したときに「これで終わりだ」と教えてくれる。僕の場合は、自分が抱いていた感情をその曲の中にうまく再現できたときだ。メロディも歌詞も、聴く人にある感情を感じてもらうためにあるんだ。
不思議なことに最近は「自分でアルバムを書いているわけじゃないのかもしれない」と思い始めている。ただ頭の中に浮かんできて、それを書き留めているだけなんだ。歌詞を見返して「こんなものを自分が書けるほど賢いわけがない」と思うことがある。言葉もメロディも突然現れて、それを書き留めるだけ。あんなに詩的なものを自分の力だけで書けるとは思えない。どこか別の場所からやって来ているんじゃないかと、本気で感じているんだ。

MM : アコースティックギターやピアノ、フィドル、マンドリンなど温かみのある編成が印象的ですが、今回のサウンド・プロダクションで重視したポイントは何でしょうか。
FD : 今回は“シンプルさ”を追求したかった。複雑なことは何もない。シンプルなコード、シンプルなメロディ、シンプルなアレンジ。それが狙いだった。同じ心地よい場所に留まり続けると、結局同じ曲ばかり書くことになってしまう。だから楽器や形式、スタイルを変えることは創作上とても重要なんだ。
例えるなら、同じ絵でも額縁を変えるようなものだね。僕は居心地のいい場所にいるより少し不安な場所にいるときのほうがクリエイティブなんだ。だから自分に挑戦するためにいつもスタイルを変える。そうすることで音楽への興味も保っていられる。

MM : 本作に参加しているミュージシャンについて教えてください。また、レコーディングで印象的だった出来事があれば教えてください。
FD : Todd Evansはキーボード、バンジョー、マンドリンを担当している。とても多才なプレイヤーだよ。Amy Chalmersも素晴らしいミュージシャンで、二人とも本当に素晴らしいシンガーなんだ。
レコーディングについて特別なエピソードはあまりないな。僕はただ曲を送って「自由に、クリエイティブにやってほしい」と伝えるだけ。彼らが返してくれたパートの中から、自分が気に入ったものを選んでいくんだ。

MM : 本作は週に2曲ずつBandcampで発表されました。この方法を選んだ理由は何でしょうか。
FD : 僕はThe Hopeless Romanticsという20代前半の若いバンドをプロデュースしているんだが、彼らが「今の時代は作品を分割してリリースするものだ」と教えてくれたんだ。本当にそうなのかは分からないけれど、新しいことをしてみたかったし、変化をつけたかった。リスクを取ってみたかったんだ。

MM : 先行リリースした曲への聴き手からの反応は、その後の制作に影響しましたか。
FD : いや、僕は基本的に聴き手が何を求めているかは気にしない。いつも自分が書きたいものを、自分が書きたいときに書くだけだ。気に入ってもらえる時もあれば、そうでない時もある。でも、自分の芸術的ビジョンに忠実であることが大事だと思っているよ。
もちろん、もしテイラー・スウィフトから電話が来たら、5分で魂を売って100万ドル稼ぐけどね(笑)。もしAC/DCみたいにアルバムごとに5000万ドル稼げるなら、そりゃ変える必要なんてないだろう。でも僕にとって音楽業界はビジネスじゃない。もちろんお金はありがたいけど、それが音楽を作る理由じゃないんだ。もしそうだったら、イーロン・マスクと一緒に月に行けたかもしれないけどね。

MM : Bandcampでは各楽曲に解説や歌詞、印象的なモノクロ写真が添えられています。こうした視覚的・文章的な要素を音楽と組み合わせた意図を教えてください。
FD : これはアルバムを発表する新しいアプローチなんだ。僕は新しいことを試すのが大好きだ。常にリスクを取りたいし、何か違うことをやってみたい。60年代から70年代の英国を表現した音楽を作るなら、アートワークや歌詞もその世界観を映し出すべきだと思ったんだ。だから、それらすべてが作品の一部なんだよ。

MM : アルバムのオープニングを飾る“It’s Christmas Day on Tuesday Night”を1曲目にした理由、そしてこの曲がアルバム全体の中で果たす役割について教えてください。
FD : この曲は、自分の幼少期についてとても勇敢に、そして正直に歌った曲だ。酒にあふれた家庭で育った、その経験を描いている。そして、この曲こそがアルバム全体の出発点になったんだ。アルバムのために最初に書いた曲でもある。ちょうどクリスマスの時期だったので、「クリスマスソングを書いてみよう」と自分に挑戦してみたんだ。でも、いわゆる安っぽいクリスマスソングにならずに書くのは簡単じゃない(笑)。だから自分にとってのクリスマスをそのまま歌った。世の中にはトナカイやロマンスや“メリークリスマス”を歌った曲がたくさんあるけれど、僕のクリスマスはそういうものじゃなかった。その現実を書いたのがこの曲なんだ。

MM : Pete Robertsによる“I Am Weary”を取り上げた理由を教えてください。この曲をカバーすることで、アルバムにどのような意味を持たせたかったのでしょうか。
FD : これは“母”についての美しい歌なんだ。僕は人生のかなり早い段階で、“母親”という存在への夢を手放さなければならなかった。誰も助けに来てくれないと悟って、自分でどうにかするしかなかった。以前に読んだ話だけど、第一次世界大戦の戦場で兵士たちは撃たれ、吹き飛ばされながら「お母さん!」と叫んでいたそうだ。人は最後の瞬間に母を求める。そばにいてほしいと願う。でも僕には、いわゆる一般的な意味での“母”はいなかった。だから僕は、自分自身の“母”になるしかなかったんだ。

MM : “Throw Me a Rainbow”では、“母”という存在へのイメージを手放したと語っています。
FD : 僕は、他の子供たちが「近づいてはいけない」と言われるような子供だった。育った家庭環境のせいで、“危険な子”と見なされていたんだ。そういう拒絶は子供に大きな傷を残す。僕もそうだった。ただみんなに受け入れられたかった。でも神様は僕にそういう人生を用意していなかった。大人になれば、自分の感情を言葉にしたり、自分の人生を理解したりできる。でも10歳の少年にはそんな知恵も術もない。ただ拒絶されることに耐えるしかないんだ。

MM : これほどパーソナルな作品を完成させ発表したことで、精神的な解放や内面的な変化はありましたか。
FD : 僕は常に変化し続けている。止まることはない。今は2週間の薬物・アルコールカウンセリングの講座を受けているところなんだ。とても興味深いよ。僕自身、35年間クリーンな生活を送っている。そして、人が自分の素晴らしさに気づく手助けをするのが好きなんだ。人が自分だけの人生を喜んで生きている姿を見ると、僕は幸せになる。

MM : 本作で使用したギターについて教えてください。
FD : 僕が持っているギターは1本だけで、ナイロン弦のクラシックギターだ。今回もそれを使った。この作品は“ギターアルバム”ではないんだ。シンプルなメロディとシンプルなテーマを持ったシンプルなアルバムなんだ。今は複雑なアレンジや超絶技巧的なギタープレイには少し飽きてしまっていてね。いわゆる“ギターソロ”というものに退屈さを感じている。今の若いギタリストたちはもっと別の挑戦をしたほうがいい。バークリー仕込みのスケールを超高速で弾けるのはもう分かっている。だったら、みんなが口ずさめるような美しいメロディを書いてみたらどうだろう、と思うんだ。

MM : アコースティックギターの演奏で、特に意識したタッチやダイナミクス、フレージングはありますか。
FD : リズムギターは失われつつある芸術だね。グレン・キャンベルのような人たちのリズムギターを聴くと、それがどれだけ素晴らしいか分かる。でも今では、ギターは速弾きや無意味な見せびらかしのためのものになってしまった。
僕はリズムギターが大好きなんだ。ソロを弾くよりもリズムを弾くほうが好きなくらいだ。このアルバムにはジョークみたいに超高速で弾いたソロが1つあるけれど(笑)、本当に得意なのはリズムなんだ。シンプルなリズムギター、それが大好きなんだ。

MM : 今作は現時点ではデジタルでのリリースですが、レコードやCDなどフィジカルでのリリース予定はありますか。
FD : 今のところはない。時間が取れればアナログ盤で出すかもしれない。でも僕に残された時間はあと20年か30年くらいだろう。だから何かに時間を使うなら、それだけの価値があるのかを考えたいんだ。もし「6日かけてレコード用の準備をする」のと「6日間子供たちと過ごす」のどちらかを選べと言われたら、僕は毎回子供たちを選ぶ。僕にとって子供たちはすべてなんだ。

MM : 今後の活動予定を教えてください。
FD : 今のところ音楽に関する大きな計画はない。今年の8月31日から学位取得のために学校へ戻るし、さっき話したように、今は薬物・アルコールカウンセリングの講座を受けている。人を助ける方法を学びたいんだ。
5月と6月にはイギリスでホームコンサート・ツアー (www.francisdunnery.com#tour) があるし、毎年恒例のチャリティイベント (www.ckdcf.org) も開催する。子どもたちの健康と教育のための資金を集めるんだ。人生には音楽業界以上に大切なことがたくさんある。音楽なら家でも毎日演奏できる。音楽を演奏するために、必ずしも音楽業界にいる必要はないんだよ。

MM : 最後に、長年応援してくれているファン、そしてこの作品で初めてあなたを知るリスナーへメッセージをお願いします。
FD : みなさんにこの新しいアルバムを楽しんでもらえたら嬉しい。そして近いうちに、美しい国・日本でまた会えるのを楽しみにしている。僕は日本が大好きなんだ。日本にいると希望を感じるし、とても穏やかな気持ちになれる。人々も文化も本当に素晴らしい。またすぐ会いましょう。

 


Francis Dunnery / England’s Tales Of The Council House Kid

https://francisdunnery.bandcamp.com/album/englands-tales-of-the-council-house-kid-2

1.It’s Christmas Day on Tuesday Night
2.Threw Me Away
3.I am Weary
4.The Council House Walls
5.Hungry For A Bigger Piece Of You
6.The Journey Of My Soul
7.Throw Me a Rainbow
8.We’re All Going Down The River
9.Worry, Leave My Mind
10.Lost My Money On a Council Place

Francis Dunnery – Guitar & Vocals
Todd Edwards – Piano & Backing Vocals
Kate Ronconi – Fiddle & Backing Vocals
Paul Brown – Bass