Vol.146 Steve Smith / June 2025

Steve Smith

「ドント・ストップ・ビリーヴィン」、「オープン・アームズ」、「セパレイト・ウェイズ」など日本でも多くの人々が耳にしているであろう数々の名曲を世に送り出した米国のレジェンド・ロック・バンド、ジャーニー。このバンドで長年に渡りドラムを担った元メンバーのスティーヴ・スミスが生みだしたロックとジャズの融合による多様なリズム、卓越したテクニックによる至高のドラムプレイはジャーニーの数々の名作の中で聴くことができる。その卓越したドラマーとしての名手ぶりは、Vital InformationやSteps Aheadといったジャーニー以外のプロジェクトでも遺憾なく発揮されてきた。そして、この2025年にリリースされたSteve Smith & Vital Informationの最新アルバム『New Perspective』においてもその卓越したリズムワークは聴き手を魅了するとともに「Don’t Stop Believin’」、「Open Arms」、「Who’s Crying Now」といったジャーニー時代の曲に新たな生命を吹き込んでいる。今回は国内のロック・バンド BLINDMANでのドラムや数々のアニメ劇伴演奏への参加、国内アーティストのライブ・サポート、レコーディング、セッション等で活躍しているドラマー、實成峻氏によるスティーヴ・スミスへのインタビュー。Steve Smith & Vital Informationの最新アルバム『New Perspective』についてドラマー視点で訊いた。

Interview    Shun Minari
Translation         Hiroshi Takakura

Shun Minari (以下SM) : 最新作『New Perspective』についてお聞きします。前作でも Self Portrait のカバーが収録されていましたが、今作ではSteps Aheadの曲に加え、同じくあなたの輝かしいキャリアの一つであるJourneyの楽曲も大胆にJazz(Jazz Rock)アレンジし収録しています。私としては異なるプロジェクトでキャリアを振り返るというのは意外でかつ、大胆な決心だったように思えますが、制作までの経緯を教えてください。
Steve Smith (以下SS) : きっかけはVital Informationの新メンバー、ヤネク・グウィズダーラ(ベース)とマヌエル・ヴァレラ(キーボード)が、Journeyの楽曲を新しいアレンジでやってみようと提案してきたんだ。最初は正直ピンと来なかったけど、実際に彼らが作ったアレンジを演奏してみたらすごく気に入ってね。原曲とはまったく違うジャズ的な解釈でVital Informationのジャズロックという方向性にもすごく合っていた。そこからさらに新しいアレンジに取り組むようになって、まずはSteps Aheadで演奏していたMichael Brecker作の “Sumo” 、そしてVital Informationの初期楽曲 “The Perfect Date”、“Eight+Five”、“Charukeshi Express”なども加えていったんだ。

SM : 実際に作品を聴いてみると、各メンバーの素晴らしいアプローチや刺激的な即興を堪能できるのみならず、Journeyの楽曲がリスナーの生活の一部分に溶け込むようなアレンジだと感じました。
SS : 同感だね。Journeyの楽曲がここまで自然にジャズロックとして成立するなんて、正直自分でも驚いてるよ。

SM : YouTubeでも ” Don’t Stop Believin’ ” と”The Perfect Date”のレコーディングの様子が公開されていますが、これはアルバム収録テイクですよね?Vital Informationにおいては楽曲の構想から、レコーディングまではどのような手順を踏んで行われるのでしょうか?
SS : あのYouTubeの映像は、実際にスタジオで録音している本番の様子で、そのまま『New Perspective』に使われているテイクだよ。基本的にはライブ録音で必要に応じて少しだけオーバーダブする程度だね。他にも『Time Flies』や『A Prayer For The Generations』の映像も公開されているけど、それも全部実際にアルバムで使われてるテイクだ。アレンジについては、最初に譜面を用意してリハーサルで細かい部分を詰めていくスタイルでやってるよ。

SM : “Charukeshi Express”はドラムスキャットと言うべきでしょうか?斬新なアイディアに大変驚きと刺激を受けました。”Heart of the City”の再録ですが、スキャット箇所に新セクションも登場し、ビートを刻みながらのダブルベースでのユニゾンはサウンドこそ違えどまるでヘヴィメタルのようなアプローチですよね(笑)普段、ご自身の馴染み深いジャンル以外の音楽も聴いたり、チェックしたりはされますか?
SS : “Charukeshi Express” は元々、ドラムセットとコナッコル(南インドのボイスパーカッションによる伝統音楽)によるソロとして始めたものなんだ。コナッコルは“スキャット”とは違って即興じゃなく、決まったリズムを特定の音節で唱える音楽で、自分のマスタークラスやクリニックでもよく披露している。決まったテンポとグルーヴを選んで、そこに固定されたコナッコルのパターンを乗せていく。発想は南インドのカルナーティック音楽から来てるけど、それをドラムセットに応用することで自分なりの形にしているんだ。今回のアレンジではGeorge Brooks(サックス)がメロディパートを担当していて、“Heart Of The City”でも録ってるけど、今回のVital Informationのヴァージョンはさらに進化していて、ダブルベースドラムも導入したんだ!

SM : 今作に使用されたドラムキットについて教えて下さい。また、1枚のアルバムの中で楽曲によってキット・スネア・シンバルなどは使い分けるのでしょうか?
SS : 最初の4曲では、2007年に手に入れたSonorの30周年記念キットを使ったよ。これは自分がSonorを使い始めてから30年の節目にあたるキットで、『Time Flies』、『A Prayer For The Generations』でも同じものを使った。キックは20×16 、スネアは14×5.5のメタル、14×5 ¾のウッド、12×5のスネア。タムは8×8、10×8、12×8、14×14、16×16、18×16。シンバルはZildjianで、22”の“Left-Side Ride”、左手側には21”の“Staccato Ride”、右側には20”のミニベル・プロトタイプ。アルバム後半の5~9曲目では、同じキットを使いつつ、キックを18×16に変えたり、20年以上愛用してるJeff Ocheltreeの14×5スネアをメインに使ったりもした。ライドシンバルも、昔のK Zildjianを再現した22”のカスタムZildjianに変えてる。(注 ) 単位は全てインチ)

SM : 作中の多くの楽曲でドラマティックなドラム・ソロを聴くことができます。漠然とした大変感覚的な質問になりますが、自らの役割がビートからソロにスイッチする瞬間、またはそこへ向かう瞬間はあなたの頭の中にはどのような意識の変化が起こっているのか、またソロがリアルタイムで構築・展開される際にイメージをしていることなどはありますか?
SS : 曲の中でソロをやる時でもドラマーの役割はリズムをキープしてバンドの土台を支えるという意識でやっているよ。ソロのバリエーションは長年かけて培ってきたものだから、いろんな選択肢があるんだ。ソロ演奏中はある意味で流れに身を任せるようにしていて、メロディックでリズミックなアイデアが自然に出てくるようにしてる。頭で考えすぎずに感覚的にやるようにしてるよ。そのうえでソロ全体として“始まり・中盤・終盤”という構成は意識してるよ。

SM : “Open Arms” , “Who’s Crying Now”は大胆なアレンジは施されていながらも、シンプルなビートと大きなダイナミクスで楽曲にドラマを作っているという点についてはオリジナルと変わらないように感じました。あなたの中でこの楽曲自体がそうさせるのでしょうか?
SS : Open Arms”のドラムは原曲に近いアプローチをしているんだけど、“Who’s Crying Now”はまったく違っていて、ほとんどの部分が15/8拍子で、4/4のパートもリズムの構成がかなり変則的だね。自分としては原曲のイメージよりも新しいインスピレーションを基にアレンジと演奏をしたよ。

SM : ”Three Of A Kind”は3人のリラックスしたセッションの様子が伺えます。互いに仕掛け合うシーンも多々ありますが、Manuel Valera , Janek Gwizdalaはあなたから見てどんなプレイヤーですか?
SS : マヌエルとヤネクは、ジャズのレパートリーや文脈に対する理解がすごく深いんだ。タイミングやフィーリング、ミュージシャンシップも最高レベルだね。即興のスキルも抜群で、まさに一緒に音楽を作るのに理想的なミュージシャンだよ。

SM : 実はつい先日、セッション・ギグのセットリストの中にSteps Aheadの”Beirut”が入っていて、カバーしたところなんです。資料のライブテイクを聴いたのですが、燃えるようなロック・スピリットを感じました。近年ではジャズでの活動が多くみられますが、正反対という言葉が正しくはないかもしれませんが・・異なるジャンルにも関わらずどちらも共通して私はあなたのドラムは”歌っている”なと思うんです。
SS : 自分のドラムのことは“アメリカのドラム”と呼べるだろう。ジャズもロックもR&Bもカントリーもアメリカで生まれた音楽で、自分はアメリカの音楽を演奏しながら育ってきたからこれらを自然にプレイできる。60年代にドラムを始めた頃は、ジャズとロックの間にそれほど大きな隔たりはなかったし、当時のロックアルバムで演奏していたミュージシャンの多くはジャズ出身だった。若いジャズプレイヤーたちもロックに親しんでいたから、そこからジャズロックが生まれたんだよ。

SM : あなたの言葉で全てのドラマーにアドバイスをするとするなら、レコーディング/ライブ、それぞれどんなことがありますか?
SS : まずはドラムの基礎をしっかり身につけること。成熟したミュージシャンになるには、たくさんのライブやレコーディングに関わるしかない。チャンスがあれば積極的に参加して、良きコラボレーターであり、貢献できるプレイヤーになること。とにかくアクティブに活動し続けることが大事だよ。

SM : 今後の予定について教えてください。Vital Informationでの来日はしばらくありませんでしたが、心待ちにしているファンも多いかと思います。
SS : 日本で演奏するのは本当に楽しいから、またすぐにでも行きたいと思っているよ!

SM : いつか日本でお会いできる機会に恵まれることを願っています!
SS : こちらこそ、日本で会えるのを楽しみにしてるよ!


Steve Smith & Vital Information / New Perspective

1. Don’t Stop Believin’
2. The Perfect Date
3. Charukeshi Express
4. Open Arms
5. Sumo
6. Eight + Five
7. Who’s Crying Now
8. Three of a Kind
9. Josef The Alchemist

Steve Smith – drums
Manuel Valera – keyboards
Janek Gwizdala – bass

https://vitalinformation.com/store/

– インタビュアー:實成 峻 (SHUN MINARI) –

6月27日、大阪府生まれ。大学在学中にドラマー長谷川浩二氏に師事。バンド活動を経て上京後、ロックバンドBLINDMANに参加。作曲家/キーボーディストの高梨康治氏に見出され、氏率いる 刃-yaiba-のメンバーとしてFAIRY TAIL、NARUTO-疾風伝-、BORUTO-ボルト-、プリキュアシリーズ、終末のワルキューレ、地獄少女、キン肉マン-完璧超人始祖編-などのアニメ劇伴演奏に参加し、現在では夏のワールドツアーが恒例となる。そのほか、久宝留理子、玲里、花江夏樹、津田健次郎、佐倉綾音、鬼頭明里、南條愛乃などのライブやレコーディングにも参加。現在も音楽ジャンルを問わず、セッションライブ・インタビュアー・楽譜監修など多岐に渡り活動中。

實成峻オフィシャルサイト : https://www.shun-minari.com/