Vol.55 Dweezil Zappa / December 2015

Dweezil Zappa


Dweezil Zappa (ドゥイージル・ザッパ) が新作「Via Zammata’」をリリースした。今作はギタリストによる作品といった小さなカテゴリーに収まるものではなく、作曲・アレンジ・プロデュースといったミュージシャンとしてのドゥイジールの総合力の秀逸さが際立ち、幅広い音楽ファンを魅了するであろう作品となっている。アルバムには父フランク・ザッパとの共作である”Dragon Master”も収録されておりザッパ・ファンにも興味深い内容となっている。注目の作品「Via Zammata’」についてドゥイージルに訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama

Translation         Louis Sesto (EAGLETAIL MUSIC)

 

Muse On Muse (以下MM) : 新作「Via Zammata’」は多彩でユニークなあなたの才能が発揮された聴き応えある作品に仕上っていますが今作のコンセプトについてお聞かせ下さい。
Dweezil Zappa (以下DZ) :素晴らしいお言葉をありがとう!既に10年も自分の音楽から遠ざかっていたからね。その10年の間にギター・プレイだけでなく、作曲やアレンジ面においても自分の音楽的ボキャブラリーを増やすことができた。そういった新たなコンセプトを取り入れることのできるアルバムを作りたいと思っていた。スタジオに入るまでは特に何もプランを立てず、レコーディングを開始してから全てが自然に形になった感じだ。

MM : アルバムに参加している各ミュージシャンの紹介をお願いします。
DZ : 今回のアルバムに参加してくれたミュージシャンの殆どはZappa Plays Zappaのツアー・メンバーだ。Scheila Gonzalez(サックス/コーラス)、Chris Norton(キーボード/コーラス)、Kurt Morgan(ベース/コーラス)、Ryan Brown(ドラム/パーカッション/コーラス)、そしてBen Thomas(コーラス)が参加している。それ以外にもゲストとしてコーラスが3人参加してくれている。The Songbirdsという名前で活動をしているとても才能のある女性コーラス・トリオだ。曲によっては弦楽四重奏やトランペット、クラリネットといった他のゲスト・ミュージシャンも起用している。

MM : アルバムはインストゥルメンタル曲からヘヴィなロック、ポップスに至るまでヴァラエティに富んだ音楽性を楽しませるとともに、その細部にまで綿密に構築されている楽曲、サウンドなど聴き込むほどに新たな発見に出会える奥深い内容ですね。
DZ : ありがとう。私の音楽からそれを感じ取ってもらえるのはとても嬉しいことだ。曲を繰り返し聴く時に新たな発見に出会えるように、様々な音のレイヤーを作るように努力をした。元々、父親の音楽にも大きく取り入れられていた要素だったことから、音のレイヤーに興味を持ちながら育ったと言っても過言ではない。今回のアルバムにおいて、アレンジ作業が最も大きなチャレンジだった。全ての曲に独自の音のキャラクターを持たせようと努力をした。

MM : 今作のための楽曲作りはどのように進められたのでしょうか? もしよろしければ普段の曲作りやアイディアのストック方法について詳細をお聞かせ下さい。
DZ : 作曲のプロセスは時を経て何度も変わっている。昔は最初にギター・リフを作り、それを中心に楽曲全体を構成していくようなやり方だった。しかし、ここ10年間はアンサンブルの中でずっと演奏していたことから、アレンジに対するアプローチが変わったと言える。楽器面だけで言えば、今の方が様々な色や質感を使えるようになっている。楽器が持つ音色やアティチュードが楽曲のムードを支配することができる。今ではその考えを念頭に置いて作曲やアレンジを行っている。「Via Zammata’」には20年以上前に書いて、今回新たにアレンジし直した楽曲も多かった。勿論、”Funky 15”のように今回のアルバムのために書き下ろした曲もあり、こういった新曲ではアンサンブル的な考え方をベースにした作曲アプローチが垣間見えるだろう。私は元々楽譜を使って作曲することができないので、バンドに曲のアイディアを伝える際はギターで録音された音源を渡している。時にはMIDI楽器を使用することもある。

MM : 今作はギタリストによる作品といった小さなカテゴリーに収まるものではなく、作曲・アレンジ・プロデュースといったミュージシャンとしての総合力の秀逸さが際立っていますがそれについては意識していましたか?
DZ : そのように評価してもらえることに感謝するよ。こういった要素に関して意識はしていた。プロダクション面においても奥深さと多彩さを持った作品を作りたいという目標はあった。前にも言ったように、各楽曲に独自の音のキャラクターを与えることがとても重要だった。

MM : “Dragon Master”はあなたと父親であるフランク・ザッパによるco-writeですが、この曲に関するフランクとのエピソードについてお聞かせ下さい。
DZ : 1988年に父がこの曲の歌詞を書いた。当時はまだメタル系の音楽がヒットチャートを賑わしていた頃だ。父がスウェーデンでのコンサートのサウンドチェックでこの曲を別バージョンで演奏したのを見たのだが、そのサウンドチェックの後に父はその曲の歌詞を使って新たに楽曲を作曲した方がいいと勧めてくれた。その後も同じ曲の別バージョンがいくつか存在したものの、正式にリリースされたものは無い。「Via Zammata’」ではアラブで使われているウードの音を取り入れたいと思っていた。アラビア風のテーマを作り、それがダークなメタル系のリフへと繋がるような構成にした。歌詞がユーモラスな分、音は逆にシリアスなものにしたかった。少し馬鹿げたようにも聴こえる歌詞と並べた時に良いコントラストができる訳だ。

MM : “Rat Race”や”On Fire”などで聴けるコーラスワークがとても印象的ですね。
DZ : ありがとう。”Rat Race”はとても面白い仕上がりになったね。ヴォーカル・ラインは全てギターで書いて、4つのパートはそれぞれ別々にレコーディングされた。そうすることによって、各シンガーはガイドとなるメロディを聴きながら歌を録音することができる。BEACH BOYSやQUEEN、それにブルガリアの女性合唱団のようなニュアンスを合わせたような感じだ。”On Fire”も楽しかったよ。この曲には妻と子供たちが何カ所か歌で参加している。何故かエルヴィス・コステロを思い出す曲なんだ。とても突飛な曲だね。

MM : “Just The Way She Is”など歌物の曲におけるコンパクトでありながらもメロディックでクレバーなギターソロが印象的ですが、歌物の曲におけるあなたのギターソロのアプローチ方法について教えて下さい。
DZ : この曲では、ひら歌にメランコリックなストーリーとフィーリングあり、サビに入ると少し希望に満ちた雰囲気へと変化していく。私は60年代、70年代、80年代の音楽を聴いて育っていて、その時代の音楽にはとても劇的なヴォーカル・アレンジの曲が多い。この曲をはじめ、アルバムに収録されているいくつかの曲では、あの当時の音楽に含まれた自分にとって親しみのある様々な要素を現代の音楽に復活させたいという思いがあった。カントリー・ミュージックとも呼べるような要素がヴォーカル・ハーモニーに取り入れられていたりもする。ギター・ソロに関しては、ソロにメロディを持たせたいと思いながらも、予測のできないスケールを使って冒険的な要素も取り入れたかった。今回のアルバムではブルース的なプレイも多いと言えるだろう。全体的に、ソロはテクニカルな要素よりも感情的な要素の方が大きいと自分では感じているよ。

MM : アルバムに収録されている各曲についてあなた自身による解説をお願い出来るでしょうか? 曲が生まれるまでの経緯や曲に込められた思い等をお聞かせ下さい。
DZ :
“Funky 15”
自分の新たな音楽的ボキャブラリーを最も明確に表した楽曲だ。複雑なリズムを沢山使っていながらも良いグルーヴを持っている。メインのファンキーなリフが8分の15拍子になっていることからタイトルが”Funky 15″になった訳だ。それに、自分が書いたストリングスとブラスのパートを加え、モダンなクラシック音楽へと曲が変化していくのも注目点のひとつだ。アルバムの中でイメージ通りにとらえるのが最も難しいソロだった。曲を通してメジャーとマイナーを行き来するメロディになっている。また、切れかけの電池を使っているかのようなアンダーバイアス系のアタックを持った良いファズ音色が得られたのもポイントだ。

“Rat Race”
ドライヴ感のあるフィーリングをとらえた曲で、エッジの効いたディストーションと予想外のハーモニーが特徴的だ。ヴォーカル・ハーモニーや曲の所々にびっくりするような仕掛けが登場する。アルバムの中でもお気に入りのひとつだ。

“Dragon Master”
父と作った唯一の共作なので、そういった意味では独特の曲だ。オールドスクールなメタル系の曲に仕上げたかったという気持ちはあった。若い頃はBLACK SABBATHやOZZY OSBOURNE、それにIRON MAIDENやJUDAS PRIESTといったバンドを聴いて育ったからね。そういった70年代後期〜80年代初期のメタル系作品に秘められた魂を呼び起こすかのような曲に仕上げることが重要だった。それと、中東音楽の要素をこのアルバムのどこかに取り入れたいと思っていたけど、この”Dragon Master”に上手く取り入れることができたね。

“Malkovich”
今回のアルバムでコラボレーションをしたもう一曲だ。ジョン・マルコヴィッチという有名な俳優の朗読をフィーチャーしている。彼が写真展を行った際に、音楽的な要素を取り入れたいという意向から彼の代理人が私に連絡をした。その時にできたのがこの曲だ。自分のアルバムだけでなく、彼がリリースしたアナログ盤にも収録されている。彼のレコードでは”Cryo-Zolon X”という題名が付けられている。個人的にこの曲で気に入っている部分はGlissentarという楽器を使っているところだ。ウードのような楽器で、11弦のフレットレス・ギターと言えば分かりやすいだろう。サビの部分で使っていて、リフに若干の不協和音を与える効果を出している。ファズ・ベースとのブレンドが何とも言えないね!

“On Fire”
抽象的なストーリーと60年代スタイルのポップ的な要素を持った曲だ。ギターを大きくメインとしてフィーチャーするのではなく、質感的な要素として使用する良い例だ。奇妙なリズムも取り入れられている。この曲でも妻と娘たちがコーラスを歌っている。それと、フィンガー・シンバルを使ったクールなエフェクトも入っている。Melodyneのソフトを使って編集したフィンガー・シンバルの音がソロの終わり/メロディックな間奏部分に使われている。音を反転させてピッチを少し上げてある。とても変わった音だ。

“Nothing”
この曲はお気に入りのひとつだ。色んな意味でとてもシンプルではあるものの、時に複雑なハーモニーが加えられている。ジミ・ヘンドリックス/フランク・ザッパのストラトをリズム・ギターとリード・ギターのパートに使っている。60年代後期のサウンドを出すための選択だった。リード・ヴォーカルは少しジョン・レノンの雰囲気があるね。ソロを弾いている時にジミ・ヘンドリックスを彷彿とさせるような素晴らしいフィードバックも録れたんだ。今までに弾いたソロの中でもかなり気に入っているテイクだよ。

“Hummin'”
20年前の曲だ。曲に含まれているメッセージ性のある歌詞をとても気に入っているよ。アレンジ面ではいくつか変えている部分がある。オリジナルのデモには入っていないテクスチャーをいくつか足してある。サビの分厚いヴォーカル・ハーモニーも気に入っている。Songbirdsの3人がブリッジ部分に素晴らしいハーモニーを加えてくれている。元のデモではフレットレス・ギターを使ってソロを弾いたのだが、そのソロをとても気に入っていたので、音を取ってもう一度ソロを覚えてアルバム用に弾き直したのさ。その他にも面白いパーカッション系の音が取り入れられている。SF系のサウンドを持った曲でもある。

“Truth”
この曲も20年前からのものだ。シンガー・ソングライター系の方向性を持った曲を沢山作っていた90年代初期に書いた曲だ。元々は歌詞がある楽曲だったのだが、「Via Zammata’」のレコーディング中に新たにインストゥルメンタルとしてリアレンジした。自分のフレットレス・ギターの演奏を聴かせたかったという思いから、ジェフ・ベックと似たようなアプローチで演奏してみることを思いついたのさ。フレットレスを使っているので、ヴォーカルに似たような性質に仕上がっている。曲の頭に入っている弦楽四重奏も元のデモに入っていたもので、デモでは全てギターで演奏されていた。今回のレコーディングでのストリングスはエンジニアとしてBEATLESの多くの名盤を手掛けたGeoff Emerickが録音を担当してくれた。私の音楽にも明らかなBEATLESからの影響が存在する。特にこの曲はBEATLESからの影響が強く反映されている。この曲のフレットレス・ギターによるソロも、自分が今までに演奏した中でお気に入りの上位に入るテイクだ。

“What If”
この曲も新たなアレンジを施した古い曲だ。どちらかと言うと80年代ポップスの雰囲気を持っている。複雑なアレンジの中に予想外のメロディックな間奏が入っている。特にギターのテクスチャーを多く使っている曲でもある。色々な金属音のようなサウンドとアコースティック・ギターによるものだ。アルバムの中で最も気に入っているベースラインがこの曲に入っている。アルバムを通して、強くてフックのあるベースラインを取り入れようと努力したよ。

“Jaws Of Life”
オープンGにチューニングされたテレキャスターを弾いていたら生まれた曲だ。このチューニングでギターを弾き始めたのは去年からなんだ。ROLLING STONESの雰囲気を感じさせてくれるとてもストレートな曲だ。また、コーラスのアレンジが沢山施してあり、若い頃に聴いていた音楽の雰囲気を作ってくれている部分もある。個人的にはCARPENTERSの雰囲気を持っている気がするんだ。Scheilaの声がこの曲ではどことなくKaren Carpenterに聴こえてくる。この曲のリード・ギターの壊れたようなファズ・サウンドをとても気に入っているよ。

“Just The Way She Is”
これも20年前の曲だ。サックスとウーリッツァーが入っていたのがポイントだね。当時の自分の音楽にはギター、ベース、ドラム以外のキーボード類等の楽器が一切取り入れられていなかった。当時のデモは使用されていた楽器類のおかげでとても目立っていた。イントロのメイン・リフの中でベースラインが半音ベンディングしているところがとても好きだね。それが楽曲全体の基礎的な部分になっている。曲のストーリーは少し悲しい内容だ。自分の子供たちが生まれる前に書いた歌詞だ。今、サビを聴くと娘のZolaとCeylonを思い出すよ。ソロのクリーン音とファズ音のブレンドがとてもいい。父を思い出すね。

“Billionaire’s Son”
おそらくアルバムの中で最も奇抜な曲だ。続きが気になるようなフィクション物語になっている。様々な変わったテクスチャーやびっくりするような仕掛けが取り入れられている曲でもある。クラリネットのソロは人々がチャールストンを踊っていた1920年代を連想させる。この曲には様々なことを思い起こさせるような音が取り入れられている。リード・ヴォーカルに合いの手を入れているかのようにGlissentarでメロディックなフレーズを弾いているところもある。George Harrison的なサウンドを持っているね。今回のアルバムの中で最も音的な映画の要素を持った曲だ。

MM : 今回の作品を制作するにあたりクラウドファンディングであるPledge Musicを活用していましたがその背景についてお聞かせ下さい。実際に活用してみてどうでしたか?
DZ : Pledge Musicのことを知り、試してみる価値があると思ったんだ。元々、このアルバムを作る予定ではあったものの、Pledge Musicを利用することで制作コストを少しカバーできないかと考えたのさ。でも、補助金を目当てにしたと言うよりも、ファンに取ってアルバムの事前予約をできるシステムとして活用したかった。事前にアルバムを注文することによって制作をサポートしながら、レコーディングが行われている間は特典映像を楽しむことができる。こういったシステムが60年代や70年代に存在していたら、どれだけ素晴らしいことだっただろうか?ジミ・ヘンドリックスやBEATLESのレコーディング・セッションを覗き見できたかもしれないし、FRANK ZAPPAのレコーディングを見ることだってできたかもしれないね。ファンとアーティストとの交流方法が劇的に変わっていただろう。ここ10年の間はこういった交流が可能になった訳だ。制作の立ち上げからファンはレコーディングに関わることができるようになったし、作品の制作方法にも影響を与えている。サポートされているとファンと繋がることができて、レコーディング自体も孤独で切り離された作業ではなくなる。

MM : Pledge Musicの中であなたは様々なギターの紹介やレッスン、レコーディングのドキュメント映像など数々の興味深い動画をUPしていましたが、これらはDVD作品としてリリースしないのでしょうか?
DZ : 確かに映像は沢山あるよ。何らかの映像作品を発表したいとも思っている。とても良いアイディアだと思うね。

MM : 最後に・・現在の音楽シーンについてはどのように考えていますか? また今後はどのような方向に進んでいくと思いますか?
DZ : 近年のポピュラー・ミュージック・シーンは非常に視野が狭い。若いリスナーに向けてマーケティングされ、あまりバラエティが無いのが現状だ。多くのヒット曲はアーティストではなく、所謂スーパー・プロデューサーたちによって作曲されている。全ての曲に方程式があるのさ。プロデューサーたちは勿論、とても優秀ではあるものの、音楽的/芸術的要素に価値を見出すよりも流行の焼き直しを使い捨てのように量産することに比重が傾いてしまっている。理論的には、様々な異なるスタイルの音楽が存在する余地はあるものの、極めてわずかな音楽だけが従来の販売経路を通じて大衆に露出されている。更に、若い音楽ファンは音楽を無料で手に入れることに慣れてしまっていることから、消費者として扱うことが難しいことを考えると業界は極めて危険で不安定な状態にある。良い作品を作るにはお金がかかるけど、作品を売ることでは多くの利益が望めなくなっている。だからこそ、ツアー/コンサートといった要素が多くのミュージシャンにとって重要になったと言えるだろう。

Dweezil Zappa official site : http://www.dweezilzappaworld.com/
Dweezil Zappa facebook : https://www.facebook.com/DweezilZappaOfficial/

 

via zammata’ / Dweezil Zappa

1. Funky 15
2. Rat Race
3. Dragon Master
4. Malkovich
5. On Fire
6. Nothing
7. Hummin’
8. Truth
9. What If
10. Jaws Of Life
11. Just The Way She Is
12. Billionaire’s Son