Vol.101 Guthrie Govan / September 2019

Guthrie Govan


Photo by Morgan Brown Photo

Guthrie Govan(ガスリー・ゴーヴァン [guitar] )、Bryan Beller(ブライアン・ベラー [bass] )、Marco Minnemann(マルコ・ミネマン [drums])のトリオによるTHE ARISTOCRATSが4作目のスタジオアルバムとなる “YOU KNOW WHAT…?”をリリース。THE ARISTOCRATSは、各メンバーが高度な演奏技術を持つとともに、ジャズ、フュージョンからプログレッシヴ・ロック、カントリー、ブルースに至るまで様々な音楽ジャンルに深く精通し、それらを融合したオリジナリティのある音楽スタイルを確立させている素晴らしいミュージシャンの集合体。新作「YOU KNOW WHAT…?」は、各メンバーが持つ豊かな音楽性、高度なテクニックに裏打ちされた表現力を背景に聴き手のイマジネーションを膨らませる音楽の宝庫となっており、アルバム全編を通して一気に楽しめる魅力に溢れた作品となっている。ギター・インストゥルメンタルやロック・フュージョンの音楽ファンはもとより、トップ・ギタリスト達の口からも最高峰のテクニックを持つギタリストの一人としてその名が挙がるガスリー・ゴーヴァンにTHE ARISTOCRATSの新作「YOU KNOW WHAT…?」について訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


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Muse On Muse (以下MM) : 今作でも様々なジャンルの音楽エッセンスが融合され、THE ARISTOCRATSとしての独自のスタイルに昇華された聴きごたえたっぷりの素晴らしい作品となっていますが、アルバムタイトルを “YOU KNOW WHAT…?”にした背景について教えて下さい。
Guthrie Govan (以下GG) : “You Know What”というのはAristocraftsの3人のメンバーで、特にツアー中に冗談を言い合う時によく使うフレーズなんだ。バンドの外の人に説明するのは少し難しけどね。このアルバムでは他の人たちが自分達に期待しているような事を気にせずに、ジャンル関係なく好きな音をやっている。そういう風に反抗を楽しむような気持ちをタイトルに込めたんだ。僕たちは自由に創造を楽しんでいて、このタイトルはそれを祝福しているんだ。

MM : THE ARISTOCRATSとしては4作目のスタジオアルバムですが、このアルバムではどのような事を目指しましたか?
GG : シンプルに次のアルバムを作りたかったというのがあるね。僕がアリストクラッツで好きなのは、単なるプロジェクトではなくて、長期的に活動して多くのアルバムを残す事ができるバンドという事なんだ。前作から1-2年のブランクを経て、メンバー全員がスタジオに戻る正しいタイミングだと感じていた。前作よりも良い作品を作りたいと考えていたし、最低でも前作とは違うタイプのアルバムにしたかった。僕達3人がレコーディングする時は、特定の同じような音楽を何回も作ることはせずに常にお互いを驚かせるように曲を書くようにしてるんだ。

MM : ブックレットのクレジットをみるとメンバーのあなた、マルコ、ブライアンが各自3曲ずつアルバムの曲を書いています。各メンバーが自ら書いた曲を他のメンバーに伝える際には各パートについてどの程度の完成状態なのでしょうか?
GG : 僕達のデモはかなり完成度が高いよ。デモを聴けば各パートをどんなサウンドにするかのイメージがわかるようになっている。実際にデモトラックの何曲かを今回のアルバムのデラックス・エディションに収録していてるから、興味のあるリスナーはデモと完成した曲を聴き比べてデモからどのように曲が進化するのかをチェックして欲しい。

MM : 各メンバーが持ち寄った曲について、その段階からどのようにして曲を完成形に仕上げていくのでしょうか?
GG : 各メンバーでスタジオに入る前に、デモを聴いて各パートや各曲の構成について予習しておく。次に3人でスタジオに入って演奏しながら、ダイナミクスをどうするのかとか、曲に合ったトーンを探したり、どこのセクションを長くするか等を決めていくんだ。次に3人でバンドとしてライブ録音をして、やり直す部分を録り直し、加えたい音をオーバーダブしていく。僕達はまずリアルタイムでライブ・レコーディングするやり方が好きなんだけど、もちろんオーバーダブやレイヤーを重ねていく事で曲が大きく変わって、よりディープになる事はあるからね。特にマルコのこのアルバムにおける功績はそういった部分にある。

MM : アルバムのオープニング”D Grade Fuck Movie Jam”からジミ・ヘンドリックスが降臨したかのような圧巻パワーのギターが炸裂しています。
GG : ブライアンが作った曲だね。曲名は6年前くらいに僕達のレビューを書いた人の文章から取ったんだ。明らかに否定的なレビューだったんだけど、僕達は気にしてなくて逆に”D Grade Fuck Movie Jam”って言葉の響きを気に入ったんだ。そのレビューのレスポンスとして、ブラインが「もしアリストクラッツが70年代のB級ポルノ映画の為に曲を買いたら」ってアイデアを思い付いた。やりすぎって言われるくらいワウペダルを使ったギターとカウベルを使ってね。僕が覚えてる限り、ブライアンはマイケル・ランドウのギターを参考にしていたと思うんだけど、ランドウはジミ・ヘンドリックスから影響を受けていただろうし、僕自身もUnivibeペダルを使用したソロ部分を聴いた時、ホット・ロッドスタイルのジミ・ヘンドリックスを想像したよ!

MM : “Spanish Eddie”はタイトルからして意味深ですが、この曲について教えて下さい。
GG:特に意味があるわけじゃないんだよ。Weenってバンドの「ブラックジャック」ってかなり変な曲の歌詞に「Spanish Eddie(スパニッシュ・エディ)」って歌詞が入っているんだ。スパニッシュって言葉を入れる事でちょっと普通じゃない感じにしたかったんだ。だからこの曲もちょっと変わっていて、プログレの要素やスペイン的な要素もあるんだけど凄く気に入っているよ。曲の構成としては、メロウなジャズやフラメンコから激しいメタルまで、別のスタイルや雰囲気が入り交ざった曲になっている。そんな風にアーティスティックな雰囲気で全ての要素がうまく混ざり合っているのが好きなんだ。

MM : “Terrible Lizard”は、恐竜の歩き回る地響き、鳴き叫ぶ声がギターの音やフレーズを通じて目に浮かんでくるような曲です。
GG : まさにそういうイメージを持って欲しかったんだ。曲の意図を正確に理解してくれてありがとう!みんながそうだったと思うけど、子供の時に恐竜が大好きで、今でもずっと惹かれていて、恐竜についての曲をずっと作りたかったんだよね。今回それが実現できてうれしいよ!こんな感じでスローテンポなのにヘヴィーな曲調の曲を作るのは面白かったよ!

MM : “Last Orders”ではギターのクリーンな音によるコードの響き、美しいフレーズが印象的でアルバムのラストを飾るに相応しい曲です。
GG : 初めはこんなスローでメランコリーかつシリアスな曲がアリストクラッツのスタイルにちゃんと合うかどうか疑問に思っていたんだ。ただサビのメロディーがずっと頭に残っていて、頭から離れる事がなかったんだ。そしてこのアイデアを曲として完成させないとって思ったんだ。そう決めると「You Know What…?(お前わかるか?)アリストクラッツとしてこんな曲やるのも全然アリだろ。」って気持ちになった。こういう風に新しい事に挑戦しようとする姿勢が僕達バンドの成長と進化に確実につながると思ってるよ。

MM : アルバムで使用したギター、アンプ、ペダル類を教えて下さい。
GG : メインのセットアップは僕のシグネチャーモデルであるアッシュ・ボディーのCharvelの1本と、VictoryのV30 Mk2アンプヘッドだね。僕達がレコーディングしたスタジオには幅広い機材が揃っているから色々と試したよ。”Spiritus Cactus”では60年代のフェンダーのJazzmasterを使用した。”The Ballad of Bonnie And Clyde”は70年代モデルのレスポールで弾いたし、”When We All Come Together”では色々な風変わりな楽器を使ったんだ。BilT Corvaireのベース、Duesenbergのバリトンギターとマンドラを使った。”junk shop”では特にメーカーが書いていないアーチトップのアコースティック・ギターと、ディーリングバンジョ、多分ほかの楽器も何個か使ったと思うよ!アンプは”Spanish Eddie”と”Last Orders”でのクリーンなトーン用にVox AC30を使った。”All Said And Done”ではヴィンテージの質感を出すために、モデルは覚えてないけどCarrのコンボアンプを使った。今回は、前作ほどの多くのエフェクターは使っていなくて、Xoticのワウペダルを“D-Grade Fuck Movie Jam“や”Terrible Lizard”のジャムしてる部分で使ったし、”Last Orders”ではProvidence Anadimeのコーラスペダルの音を聞く事ができる。Univibeのペダルも“D-Grade Fuck Movie Jam“で部分的に使ってるし、”Burial At Sea”の特殊なトーンはEventide H9を使ってH9内のシンセサイザーのアルゴリズムを使って音を変えたんだ。あとはXotic EP Boosterを特に”Terrible Lizard”で隠し味的な感じで色んなパートで使ってるよ。


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MM : 超絶テクニックを持ったミュージシャンによるインストゥルメンタル音楽の作品の中には数曲ならまだしもアルバム一枚を通して聴くには厳しいものもあるのが事実です。あなた達の場合は超絶テクニックを持つミュージシャンではありますが、豊かな音楽性を背景に持つためとても心地よくアルバム全編を通して楽しめます。この点については意識しているのでしょうか?
GG : そうだね。このアルバムに関しては特にテクニックを駆使してギターを弾いたとは思っていないね。もしテクニック自慢が目的ならもっと複雑なプレイをしていると思うんだけど、僕がギターを弾くのは価値がある音楽をやる事、その曲にあったムードや味付けを曲に施す事なんだ。君がアルバムを聴いて、そういう風に僕がやりたい事をわかってくれるのはすごくうれしいよ!

MM : あなたはギター誌 Guitar Techniquesにて読者に向けた数多くのレジェンドギタリスト達の楽曲について解説、模範演奏を収録していました。そのどれもが的確でまるで本人のようなリアルな演奏でした。あなた自身も確固たるオリジナルのスタイルを築き多くのギタリスト、音楽ファンから称賛されています。レジェンドギタリスト達の単なるコピーに終わることなく、独自のスタイルを築きあげた過程について教えて下さい。
GG : 音楽を言語に置き換えるとわかりやすいかもしれない。英語の話し方を学ぶのと同じように音楽を学んだんだ。ギターは小さいときに独学で学んだけど、まずできる事は自分が聴いた音をコピーする事だった。そうやって言語でいうところの語彙を増やしていくんだ。そして語彙が増えれば言語を使って自分が言いたい事を伝える事ができる。そうやって各々のミュージシャンが独自の声と個性を築いていくんだ。雑誌Guitar Techniquesで解説と模範演奏の仕事を始めた時は、既に自分のミュージシャンとしてのスタイルを確立していて、”Waves”、”Wonderful Slippery Thing”や”Bad Asteroid”といったオリジナル曲を作っていた。ただ若い時に身に付けた耳で聞く事に集中して他のギタリストがやっている事を模倣するってスキルがあったから、それを使った仕事で収入を得て、他のギタリストの為に役立つ事っていうのは意味のある事だったと思うよ。

MM : あなたはロック、ジャズ・フュージョン、カントリー、ブルースなど多岐に渡る音楽ジャンルにいずれも深く精通し、それらジャンルのギタースタイルについても非常に高度なテクニックを持っています。これらを成し遂げるためにはどのように音楽に取り組んできたのでしょうか。
GG : 僕にとっては全ての音楽はつながっていて別々のものではないんだ。ジャンルやスタイルが違うって事は、同じ言語だけど地方によって方言や発音が違うのと同じようなものだね。僕は冗談抜きでどの音楽を聴くのも好きだから、自分の音楽的なアイデンティティとして一つのスタイルを選んでそれに特化するっていう事はないよ。

MM : インストゥルメンタル音楽の素晴らしい作品が続いていますが、ASIAやGPSで活動していた時のようなボーカリストをメンバーに加えたロックバンドは手掛けないのでしょうか?
GG : それは考えてないね。9歳の時からやってきたように、僕はインストの音楽を作ってる時が一番ハッピーなんだ。インストをやることで言葉の壁ができることもないから世界中の何処でもプレイできるってところも気に入ってるよ。

MM : 今後の予定を教えて下さい。
GG : 10週間にも及ぶアリストクラッツの全米ツアーをちょうど終えたところで、今はハンス・ジマーと彼のバンド/オーケストラとの短いアジア・オーストラリアツアーに向けてのリハーサルが始まるところだ。その後にはアリストクラッツに戻ってヨーロッパツアーが始まる。要するにこの半年間はすごい量のギグと移動が待ってるって事だね!その後は何をやってるかわからないね。ちょっと休んでから考えるのが良いと思ってるよ。

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
GG : 作品を聴いてくれて、僕達がやってる事に興味を持ってくれてありがとう!それが一番言いたい事だね。ツアーで会える事をたのしみにしているよ!

Guthrie Govan facebook : https://www.facebook.com/GuthrieGovanOfficial/
The Aristocrats official site : http://the-aristocrats-band.com/


The Aristocrats / You Know What…?

1.D Grade Fuck Movie Jam
2.Spanish Eddie
3.When We All Come Together
4.All Said and Done
5.Terrible Lizard
6.Spiritus Cactus
7.The Ballad of Bonnie and Clyde
8.Burial at Sea
9.Last Orders