Vol.129 Supersonic Blues Machine / September 2022

Supersonic Blues Machine


Photo by Enzo Mazzeo

Supersonic Blues Machineは、プロデュース、作曲・アレンジ、ベース、ミックスを一手に担うファブリツィオ・グロッシーとジョン・メレンキャンプ、ジョン・フォガティからジョン・ボン・ジョヴィ、セリーヌ・ディオンに至るまで膨大な数のアーティストの作品に参加している大御所ドラマーのケニー・アロノフ、そして英国出身の才能豊かな熱きブルース・ロック・ギタリスト、シンガーのクリス・バラスによるブルース・ロック・プロジェクトである。彼等の魅力は、その実力から弾き出されるブルージーでドライヴ感に溢れたロックは勿論、彼等のブルース・ロックへの想いに賛同するゲストミュージシャンとの共演もそのひとつであり、これまでにもビリー・ギボンズ、ロベン・フォード、スティーヴ・ルカサーやウォルター・トラウトといった強者達と共演している。2022年6月22日にリリースされた最新作「Voodoo Nation」でもファンの期待に応えるSupersonic Blues Machineらしさ溢れるブルース・ロックが全開であり、サニー・ランドレス、カーク・フレッチャー、エリック・ゲイルズ、ジョー・ルイス・ウォーカー、アナ・ポポヴィッチなど秀逸なギタリスト達を招いた熱いブルース・ロックの共演を聴くことができる。最新作「Voodoo Nation」についてSupersonic Blues Machineの面々に訊いた。

Interview / Text  Mamoru Moriyama
Translation         Hiroshi Takakura


Photo by Enzo Mazzeo

Muse On Muse (以下MM) : スタジオ・アルバムとしては、「West of Flushing, South of Frisco」(2016年)、「Californisoul」(2017年)に次ぐ3作目となるニューアルバム「Voodoo Nation」がリリースされました。今作のコンセプトについて教えて下さい。
Fabrizio Grossi (以下FG) : 「Voodoo Nation」のコンセプトは、今自分たちが生きてる時代の現実を直視するという所謂リアリティチェックだね。覚えておいて欲しいのはこのアルバムは2020年の6月にリリースされる予定だったということだ。このアルバム全体のテーマである”我々の怒り度合い”を考えるとこのアルバムがコロナウイルスに怯えていたロックダウン期に書かれたと思う人たちもいるだろう。だけど実際には違うんだ。自分たちの予想はそうは間違っていなかったという事だね。音楽的にはロリー・ギャラガー、ロビン・トロワー、ゲイリー・ムーア、エリック・クラプトンといった偉大なイギリスのBlues/Rockのアーティストの影響を受けたクリスと彼独自のサウンドを、このバンドの音の中心据えるという事を意識したよ。

MM : 英国出身のクリスがメンバーとなった以降は、良い意味で楽曲に英国風なテイストが増してきたように感じます。
FG : その通りだね。でも偶然そうなったんじゃなくて自分たちがそれを求めたんだ。ケニーと自分が奏でるふざけたリズムの上でクリスの個性を輝かせたかったんだ。お気に入りのアーティストのほとんどがそのブリティッシュ・サウンドを携えているよ。ストーンズ、ビートルズ、クリーム、ツェッペリン、ピンク・フロイド、デビッド・ボウイや他にも沢山いるよ。だから君のそのコメントを誇らしく思うよ。

Kenny Aronoff (以下KA) : 私は英国のロックンロール・バンドと60年代から90年代までの音楽はすごく好きだよ。個人的にはそういうブリティッシュなバンドのドラマーに影響を受けたんだ。ローリング・ストーンズ、ジミ・ヘンドリックス・エクスペリエンスのメンバーだった英国人のミッチ・ミッチェルやノエル・レディング、クリーム、ザ・フー、ビートルズ、キンクス、スモール・フェイセス、アニマルズ、ヤードバーズ等数えきれないほどのアーティストに影響を受けた。だからクリスをバンドに迎えたことは素晴らしい事だね。

Kris Barras (以下KB) : 俺の歌い方やプレイスタイルによってこのアルバムは前作よりもヘヴィーなものになったと思ってるよ。ブールスのアーティスト全般から影響を受けてきたんだけど、ゲイリー・ムーアの音楽と共に育ったから彼はいつも俺の大好きなギタリストだね。彼のエネルギーや情熱が大好きで、自分でプレイする時にも常に意識しているよ。

MM : アルバムの収録曲は、あなたとメンバーであるケニーやクリスに加え、メンバー以外にもSerge SimicやAlex Alessandroni Jrがクレジットされています。アルバムの曲作りの過程はどうでしたか。
FG : 基本的にSupersonic Blues Machineのアルバムが出た翌日には次のアルバムに取りかかるんだ。だから「Voodoo Nation」は「Californisoul」が出てすぐに制作をスタートさせたよ。曲やアイデアのストックはたくさんあったからね。そして新しいシンガーとギタリストがバンドのフロントに立ってくれる事になった!!だからいつもよりもメンバーと意見やアイデアを交換したし、いつもより多くの人を巻き込んだプロジェクトになった。作品として前に進んだアルバムで、今までのどの作品とも違うものにしたかったからね。アイデアやパートはネット上で交換したけど、本格的にレコーディングを始めたのは2020年の1月にクリスがLAに来た時だ。でもプリプロの為に書いたちょっとしたパートが最終的にアルバムに入ったって事もあったね。録音は全て自分のスタジオかその隣のケニーの部屋で行われた。ゲストアーティストに関しても同じだね。アイデアを交換した後に直接会って録音したものがアルバムに収録されている曲さ。

MM : レコーディングはどのように進められたのでしょうか。
FG : 前述したようにプリプロのセッションを基にして、LAで皆が集まった時に全て録音したよ。アコギやキーボード、バッキング・ボーカルなんかは自分達が大体の録音を終えた後に加えたんだ。それ以外は俺が録音を担当した。ドラムの録音は俺といつも一緒に仕事しているデイブが助けてくれた。プロデュースと演奏とエンジニアを全て同時にやるのはクレイジーだからね。このアルバムは一つの通過点と言えると思う。前作までの作品では使ってこなかったツール達を使ったからね。録音したケニーのテイクから切り取ったパートをループしたりと編集も加えたんだ。60年代のフィーリングを加える為に、パンチが効いたた60年代のファズの音色も加えた。アグレッシブで現代的な音も加えたし、歌詞と音楽がリンクしているかといった事も意識したね。

MM : アルバムのタイトル曲でもありミステリアスな雰囲気を持つ”Voodoo Nation”について教えて下さい。
FG : 今の世の中への鬱憤みたいなものはみんな溜まっているよね。人生はそんなもんだって教えられてきたけど実際はそうじゃないはずだ!お前らはこういう風に生きろっていう目には見えない圧力が存在しているよね。この曲 ”Voodoo Nation”はそんな自分たちが生きている時代に叩きつける曲なんだ。アメリカだけでなく世界中で共通している事だと思う。自分たちは今まるでゾンビのように、機械のように生きているんだ。Voodooは特にアメリカの南部、細かく言えばルイジアナ州で昔から語り継がれてきたものだけど、簡単にいうと魔女〜シャーマン〜魔法使い、呼び方は任せるがそういった人達が、人間が物事をちゃんと考える事ができない状態に、まるでゾンビのような存在に変えてしまうことが可能だったって話なんだ。ゾンビという言葉は使い古された言葉で好きじゃないけど、その言葉は近代のブルースの偉人達にも関係がある言葉だから、自分たちはVoodooという表現を使った。自分たちはヴードゥーの世界に生きているんだ!

MM : King Solomon Hicksが参加している”You and Me”では、曲の後半でのコーラス隊とのQueenの”We Will Rock You”的なドラムの絡みも印象的です
KA : そうだね (笑) ”We Will Rock You”は最高のロックンロールビートで大好きさ。あのビートはロックンロールの魂の音なんだ。私にとって”You and Me”はソウルフルで力強くてスピリチュアルな曲なんだ。スタジオではもうプレイしたけど、早くスタジアムや教会であの曲を演奏したいね。

MM : “Coming Thru”では、ジミ・ヘンドリックスを彷彿させるギターのリフとベース・ラインが生み出すグルーヴが印象的です。
FB : 音楽的にも音響的にもジミ・ヘンドリックスは間違いなく自分とメンバーにとって一番影響を受けたアーティストの1人だね。彼はカオスのような音色やブルースの繊細さを抽出し、確信を持ってそれらの音を伝える事のできるアーティストだった。彼に大きな影響を受けた事は否定できないね。この曲だけでなくこのアルバム全体からも、これまでの作品からも彼の影響を感じる事ができるだろう。歌詞の内容は堂々と自信を持って突き進むという内容だ。何か目的を果たそうと行動する時には必ず邪魔されたり反対されたりといった事が起こるよね。そういう人々は決して悪意を持って君の前に立ちふさがっている訳ではないんだ。特に自分たちのような音楽ビジネスをしている者は、物事を前に進めようと思ったら、障害となるルール、仕組み、その他の虫酸が走るような出来事を壊して突き進んで行かないといけない時もあるんだ。毎日のようにそんな出来事が起こるからね。音楽だけじゃなくて人生も同じさ!。

MM : “8 Ball Lucy”におけるスライド・バーの名手であるサニー・ランドレスとあなたの共演ではサニーのスライド・バーよるプレイに対するあなたの強烈なベンド、ヴィブラートによるプレイの対比がクールで印象的です。ギタリストとして彼との共演はいかがでしたか。
KB : サニーは最高のミュージシャンさ。彼と初めて会ったのは、俺も出演していたポーランドのフェスティバルだったけど、彼のサウンドとテクニックには衝撃を受けたよ。このレコードに彼を招く事ができて本当に嬉しいよ。残念ながらパンデミックのおかげで彼と実際にジャムしながらレコーディングする事は叶わなかったんだけど、彼の録音したパートがこの曲をネクストレベルに引き上げてくれたと思う。


Photo by Enzo Mazzeo

MM : アナ・ポポヴィッチが参加している”Do It Again”では爽快でテンポ良いドラムのリズムに乗ってのクリスとアナのギターの掛け合いが魅力的です。
KA : この曲は大好きさ。物凄いエネルギーが込められているんだ。ロック、ファンク、ブルースがSupersonic Blues Machineの音楽なんだ。そんな自分たちが好きな音楽のスタイルを包括してできた曲だね。自分の好きなロックンロール・バンドの構成は2xギター、ベース、ドラム、キーボード、バッキングボーカルと力強いリードシンガーで、アナとクリスはその為に素晴らしい仕事をしてくれたんだ。

MM : 曲にマッチし映えさせるドラムをプレイする上であなたが心掛けていることを教えて下さい。
KA : その曲、そのバンド、そのアーティストに仕える事だね。自分が大事なんじゃなくて曲が大事なんだ。ドラマーとしてはよくその曲をよく聴いて理解した上でビートやタイム、それにグルーヴをキープするんだ。あくまでも曲自身がボスで、リーダーで、その曲が自分にどう演奏すべきかを教えてくれるんだ。

MM : 他にもクリスは、”Is It All”(ジョー・ルイス・ウォーカー) “Devil At The Doorstep”(エリック・ゲイルズ)、”Get It Done”(ジョシュ・スミス)、”I Will Let Go”(カーク・フレッチャー)など今作でも素晴らしいブルースギタリストとの共演を聴かせてくれますが、彼等との共演してみて、どのような事にインスパイアされましたか。
KB : ジョー・ルイスとは2019年に何回か一緒にライブで演奏したことがあるけど、人間としてもアーティストとしても素晴らしい人だね。真のブルースのレジェンドで歴史の証人でもあるから彼といるといつもインスパイアされるよ。エリック・ゲイルズも同じだね。彼は本当に最高なんだ。彼をライブで観る時や一緒にジャムする時、俺はいつも打ちのめされる。彼らとのコラボレーションは俺にとっても大事な試合だから、自分の最高の表現をしようとしているよ!カークもだね。ファンタスティックなギタリストで本物のブルースの音や世界観を持っている人さ。

MM : プロデューサの観点としてSupersonic Blues Machineにゲストとして共演するミュージシャンに求めていることを教えて下さい。また彼等が参加する曲においてはどのようなことを心掛けていますか。
FG : いわゆるゲスト・ミュージシャン達はみんな友人で、一緒に仕事をしてきた仲間、一緒に演奏してきた人たちなんだ。若いミュージシャン達も同じだね。自分たちが好きな人間で人として付き合いがある。だから完成した曲からは我々が一緒に素晴らしい時間を過ごしたって事が感じられるだろう。プロデューサーとして、またSupersonic Blues Machineの一員としてゲストにお願いしている事は一つだけで、自分の曲を演る時のようにプレイして、ベストを尽くしてくれって事だけだね。彼らには完全に自由を与えて彼らのサウンドと個性を出して欲しいと思っている。それが結果的に素晴らしい曲に繋がるんだ。自分たちがアーティストとして音楽のコミニケーションを取る事によって曲が新鮮でかつリアルで、正直な素晴らしい作品になる。メジャーなレコード会社が作るコマーシャルなアレンジを施した曲との違いはそこだね!

MM : この作品の中で最も印象に残っている曲を強いて挙げるとすると?
FG : 1曲だけを選ぶのは不可能だね。自分の子供達のなかで誰か1番好きかなんて事言えないのと同じだ。皆それぞれ特別なんだ。個人的な理由と体験から一つ挙げるとするなら自伝的な曲の”Devil at the doorstep”だね。でもあくまでも個人的な理由にすぎなくて、とにかくアルバム全体に満足しているよ。

KA : もし一つだけ選ばなきゃいけないとしたら”8 Ball Lucy”だね。曲のコンセプトと次々に展開が変わっていく構成が大好きなんだ。

KB : 好きな曲を一つ選ぶのはいつも本当に難しいよ!一つには絞れないけどライブで演奏するのが楽しみな曲は”Voodoo Nation”だね。楽しくプレイできると思う。あの曲のリフはライブで観た時すごく強烈だと思うし、即興でジャムするスペースが残されているのも良いね。

MM : Supersonic Blues Machineとしては勿論、各メンバーの皆さんもそれぞれ自身の音楽活動で活躍されていますが、それぞれ皆さんの今後の予定について教えて下さい。
FG : 今はメンバー全員がVoodoo Nationのプロモーションと2023年の復帰ツアーのブッキングに注力している段階だね。ケニーはジョー・サトリアーニとのツアーが秋と翌春に控えている。クリスは2023年の初頭に、彼のバンドKris Barras BandのEUツアーが予定されているよ。自分は今秋と来春の間の時期に自身のバンドSoul Garage Experienceのツアーとレコーディングが入っているよ。タッシュ・ニール、Rival Sonsのマイク・マイリーやLiving Colourのコリー・グローヴァーやたくさんの人とレコーディングする予定さ。でもまずは先に言ったようにVoodoo Nationのリリースツアーをやる事に全力を尽くしているよ!

KA : 楽しみにしているSupersonic Blues Machineのツアーの他には、私のレコーディング・スタジオ、ロスのUncommon Studioでのセッションが控えているね。ジョー・サトリアーニとはアルバムを2枚作ったからそのアメリカツアーも予定されている。他にもJimi Irsay Collectionのライブや企業の講演会的なイベント、 “Sex Drums Rock ’n’ Roll”に続く2冊目の本の執筆とHal Leonard社から出るドラム楽譜の本の仕事も控えているよ。

KB : Kris Barras Bandの大規模なUKツアーが予定されているよ。26公演もあるんだ。その後にヨーロッパのツアーもできればと考えている。Supersonicとしてもアメリカとヨーロッパのツアーがあるね。いつか日本も回ることができればと思っているよ!

MM : ファンへのメッセージをお願いします。
FG : 私たちの音楽をサポートしてくれてありがとう。みんなのサポートのおかげで世界中で演奏することができるんだ。皆の愛をアーティストとして感じていて本当に感謝しているよ。私たちのSNSもぜひチェックしてコメントも書いてほしいな。リクエストも大募集さ。世界中でライブしたいと思っているよ。

KA : 人生の目的や自分の中の真実、情熱や本当にやりたい事を大事にして生きてくれよな!!

KB : ずっとサポートしてくれてありがとう!しばらくみんなの前でライブしてないけど、ずっと会いたいと思ってるよ。皆の前でライブする為にハードワークしているところさ。すぐに会おう!

Supersonic Blues Machine official site https://www.supersonicbluesmachine.com/


Supersonic Blues Machine / Voodoo Nation

1. Money
2. Too Late
3. Coming thru
4. You And Me (feat. King Solomon Hicks)
5. Get It Done (feat. Josh Smith)
6. 8 Ball Lucy (feat. Sonny Landreth)
7. Devil At The Doorstep (feat. Eric Gales)
8. Is It All (feat. Joe Louis Walker)
9. Do It Again (feat. Ana Popovic)
10. I Will Let Go (feat. Kirk Fletcher)
11. Voodoo Nation
12. All Our Love (feat. Charlie Starr)